庶民の日本酒
焼酎の大ブームから日本酒が復権し勢いを増すためには庶民に愛されなくてはならない。
「日本酒は庶民のものだ。安くて美味くなくてはならない」
今、力のある酒屋さんで人気のある日本酒は2000〜3000円台、高くても4000円くらいです。
確かにこのクラスのお酒には、よくこの値段でこの味を保てるものだと感心するようなお酒が次から次へと現れてきています。
安くて美味い酒の大合唱は、時として高いお酒の否定に繋がることがあります。
「高いだけでたいしたことない」
「高けりゃ美味くて当たり前」
「この値段を出すならもっと安くてずっといい酒がある」
などなど
私の店などもヤリダマにあげられることがあります。
「ふんだくるだけ」
「高いだけの接待用」
「金持ちのお遊び」
確かに私ン処の日本酒のラインアップには高価な日本酒が並んでいますが、高価であるにはそれなりの理由があり、私に言わせれば、高価とは言ってもこの値段でこれだけの洗礼された味は安いくらいだと思っています。さらに安価で美味いものの用意もたくさんあります。
駿州中屋大吟醸生荒走り
日高見大吟醸40%
杉錦純米吟醸
奥播磨山廃純米生
どれもが、蔵と酒屋さんの高い志のもと生み出され、踏ん張って作られているいいお酒ばかりです。
これらのお手頃なお酒は値段からすると充分すぎるほど美味しいお酒であるのですが、多くのお得意様が「お前ン処に来てこのクラスのお酒をたくさん飲もうとは思わないよ」とおっしゃるのです。
「値段の問題ではない、もっと美味い奴をいい奴を」
そういうお客様が私ン処ではたくさんいらっしゃいます。安くて美味いを求めては来られないのです。
少々のことはかまわないから、自分では手に入らないちゃんと美味しいお酒を飲んでみたいとおっしゃいます。
「安くても美味い」を追求するあまり、「高くても素晴らしく美味しい」をイメージだけで否定しないでいただきたい。
ワインでも全く同様です。
「ワインリストには¥10000台以上のものばかり並び、¥5000以下がちっともない」庶民の味方のグルメ評論家の決まり文句です。
私ン処の¥5000台、マコンシャントレ1999 ドメーニュ ヴァレットの白ワイン。ブルゴーニュルージュ1998 アンヌ・グロ
両方とも自慢の品物です。安くて美味いワインを並べる飲食店に、このドメーニュのこの熟成感のあるワインが置いてあることはあまりありません。
それでもお客様はやっぱり「お前ン処ではもっといいやつを飲みたい」とおっしゃいます。注文してくださる方はちゃんといいワインをご存知で「この作り手このヴィンテージでこの値段なら安いくらいだ」と理解してくださっています。
安くて美味しいお酒が現れてくれるのは大賛成なのですが、高いことが悪であるかのような思い込みは勘弁していただきたいと思うのです。