淡麗と辛口

そこそこいけそうな女性のお客様の日本酒の注文がありました。メニューを一生懸命ご覧になってもなかなか選びきれる内容ではありません。


「よろしければお奨めをお持ちしますが」とお持ちしたのが「十四代 純米吟醸 愛山」


「うーーーん、甘いなぁ。辛口をください」



「義侠 純米大吟醸40% 中汲み」


「やっぱり甘いです」


さらに
「凱陣 純米大吟醸しずく斗瓶平成14年」


「ああ、ご主人、こういうお酒が好きなんですねぇ」と諦めた感じでそのお客様。


「”こういうお酒”???」私の中ではだいぶ違うと思うのですが、そんなことは口にできません。微笑みつつ「普段どんなお酒をお好みでいらしゃいますか?」と私。


「久保田の万寿とか洗心とか・・・・」


やっぱりきたか「万寿」


よくあることなのですが、このお客様も「淡麗」と「辛口」といっしょにしてしまっているのですね。見抜けない私の力不足なのですから言い訳はできません。


すっきり水のようにさらさらとした喉越しであるお酒はある意味辛口であることも多いのですが、辛口にはコクと旨味のある辛口もあるのです。もちろん酸度の高い辛口もあります。数値的に言えば、日本酒度が甘い辛いを現すとはいっても、酸度、アミノ酸度のバランスで舌に感じる辛味は違ってきます。「淡麗=辛口」ではないのです。


お客様の言う「私の好きな”こういうお酒”」も考えてみると「旨味のあるお酒」「ふくよかさのあるお酒」なのかもしれません。


旨味とかふくよかさは、米の旨味とふくよかさです。口に含んだときの味の広がりや厚みを「甘さ」と考える方には、切れや辛味を後味として感じても関係ないのです。


これまで繰り返し繰り返し言いつづけているように、万寿が悪いお酒だとは決して思っていません。15年前には万寿と菊姫大吟醸だけで日本酒はやっていけると思った時代もあったのです。


ただ、日本酒のバリエーションの豊かさを知ってしまうと、切れ味だけの平板な味のお酒には興味がなくなってしまうのも事実です。


こういうお好みのお客様にたとえば「モンラッシェ」の熟成したものと「マコン」の若々しいものをお出しすれば、「マコン」に軍配をあげるかも?


私ン処なんぞでは少数派の「淡麗命」「お酒の判断基準は甘い辛いだけ」のお客様は、実は世の中の大多数かもしれません。甘い辛い話には嫌気が差しつつもつい愚痴を言ってしまう情けない私。
(お話はわかりやすくするためにフィクションを含んでいます。そう、アナタのことじゃありませんよ::笑)