普通のカツ丼

掲示板をご覧の方はすでにご存知ですが、少し前にカツ丼の話題になったことがあります。読まれたお客様が「こだわりのカツ丼」とおっしゃってくださり、実際にやってみてくださったお得意様もいらっしゃいました。ありがたいことです。


以下、掲示板から引用してみました。


豚は必ずロース。切る時の厚さが大事です。薄すぎるカツ丼は貧相ですが、熱すぎると衣とのバランスが悪くなります。トンカツは肉を食べる料理ですが、カツ丼は肉と衣、衣がすった汁とのバランスが大事です。


切った肉は筋を切り、肉たたきで叩いて柔らかさを出します。塩胡椒の後、(塩胡椒をしないとどんなに丼汁が美味しくても頼りない味のカツ丼になります)小麦粉、玉子、生パン粉、さらに玉子、生パン粉という風に二度付けをします。前述のように衣の厚さもきちんとないと汁がしみこみません。ですから、カツの下の部分は汁をすってじんわり美味しく、上はかりっと感が少し残るのがいいのです。薄い衣ではカツ丼は台無しです。


170度の温度でカツを揚げ、揚げ上がりの1分半前に丼鍋で玉ねぎを焚き始めます。今の時期の用に玉ねぎが新玉ねぎのフレッシュさが残っているときは厚めに、玉ねぎがひねてくると薄めに切ります。新玉ねぎはシャリシャリ感が少し残っている方が美味しく、ひねは薄めにして煮込んで甘みがでます。


丼汁は120cc、親子丼は150ccくらいでないと玉子のとのバランスがよくないのですが、カツ丼に丼汁を多くしすぎると衣が汁を吸いすぎてしまいます。


揚げ上がりは中心部分がまだピンク色でなければなりません。余熱とその後の煮る作業のためです。切るときも脂の多い部分は小さく赤み部分は大きめに。


玉ねぎを煮た丼鍋に切ったカツを投入してほんの軽く焚いた後玉子を入れます。玉子は決して溶きすぎてはいけません。卵白がまだ残る程度5〜8回程度かき混ぜる程度です。私は1.5個の卵を使います。


玉子を入れてからの見極めは最重要です。玉子に均等に火が入るように・・・とゆすったりしてはいけません。じっと鍋を見つめ(笑)かなり半熟状態で(口でいうのは難しい)火を止め、蓋をして火を止めます。その後30秒。余熱でふんわり感を出します。


ご飯の上に滑らすように乗せます。きれいに具がご飯にかぶるような丼の選択とご飯の分量も大事です。


少々長くて恐縮ですが、カツを揚げて、玉ねぎと一緒に焚いて、玉〆にするという、ご存知「カツ丼」は、こまかく注釈をつけるとこんな風になるというお話なのです。(素材への思い入れは何も書いていません)実際にはこのくらいのことは「こだわり」ではもちろんなくて、どちらの料理屋さんもこの程度の手順は踏むのが当たり前で、私のように大仰に言ってしまうか、寡黙に語らず淡々と仕事をするかの違いなのです。


お足を頂戴できる程度の料理屋の仕事というのは、一皿一皿にこのくらいの手間をかけるのが当たり前で、メディアで好んで使う「こだわり」とか「職人の技」などといういいもんではなくて、真っ当な普通の仕事なのです。ちょっとした手間を怠らない、あるべき仕事はあるべきように手を抜かないことを繰り返す。こんな手間仕事をありがたがるような風潮になってしまっているとしたら、なんか間違っている・・・・と思うのです。