女性二人


女性二人連れのお得意様の飲み物のご注文。


「ワイン! 美味しいの選んでね。お造りの時に日本酒もちょっとだけ欲しいな」


というわけで、セラーから選んできたのが、ジョルジュ・ルーミエのボンヌ・マール1993とジャン・クリボーのリッシュブルー1993。どちらもブルゴーニュの中のブルゴーニュです。


で、選んでいただいたのはリッシュブルーのほうでした。


「うわぁーーー、なんて美味しいのぉ」


板前至福のときです。


ヴォーヌ・ロマネ村 たった0.31999haのエティエンヌ・クリボーが持つリッシュブルーの一区画からできる奇跡のワイン。1987年〜1991年のギィ・アカイ時代を経て、1993年から花開いたクリボーの当主エティエンヌの最上級の畑です。不味いわけがないのですが、この美味しさを理解していただくにも年季がかかるものだと思います。美味しいものを食べつくしてきたお二人には、たくさんの講釈はなくても、圧倒的なブーケとリッチな味わいを感覚であっという間に理解してしまうのです。


「美味しい」といっていただく以上に、お二人の今日のお食事への思い入れや力の入れ具合、お二人が美味しいと思えるワインのレベルと舌の理解度。お客様のお気持ちを満足させることができたかもしれないという意味での私の至福でもあります。


田舎町の和食屋でジャン・クリボー、しかもリッシュブルーが売れるわけない・・・・と思ってしまえば、志は途切れてしまいます。


美味しいものを美味しいと理解していただき、それ相応の値段を正当なものと評価してくださる方がいて初めて店は成り立ちます。そういうお客様に恵まれた私は幸せ者です。


紀州の本鮪(大根おろしワサビ)巨大なイサキ(土佐醤油)白川昆布締め(塩昆布)のお造りには磯自慢純米大吟醸 山田錦と愛山を楽しんでいただき、白川の頭を若狭焼きにしたものではヴェルジェ シャブリ グランクリュ ヴァルミュール1997(ヴェルジェ最初のヴァルミュールと記憶しているのですが)食後酒に達磨正宗昭和54年純米甘口果実香までお出しして締めくくっていただきました。


正真正銘の何代も受け継がれた掛け値なしの「お嬢様」と、お父様が持っていらしたお大尽の気質を正当に受け継いだ「お嬢様」の見事な食べっぷり飲みっぷりに圧倒されつつ、この地も捨てたモンじゃぁないぞ・・・・とお得意様に手を合わせます。


たぶん送られた請求書を見て「あのワインがこんな値段じゃ・・・・相変わらず原価計算ができない商売下手ねぇ」と怒られてしまうに違いありません。そういうことまで知識でなく、培われた感性でわかってしまう、受け継がれ磨かれる経験というのはそうしたものです。