clementia2004-04-09



これを見て「ウワァッ、美味そう」と思うか、「ヤダァ気持ち悪い」と思うかで食べる意欲はずいぶん違います。


外国の方から見ると、日本人が海外の市場で羊の頭だけが並んでいるのを見てゾッとするのと同じようなものなのかもしれませんが、魚好きにとってはたまりません。


すべて地物、福田産、遠州灘であがった1.5kg以上の甘鯛です。


浜松に入ったいいものの大半を頂戴した・・・・とプチ自慢してしまいそうなくらいいい甘鯛がそろいました。最上のもの一部は昆布〆にしてお刺身に、別の上身は塩を当てて半干にし、自家製の唐墨を砕いて乾煎りしたものを振って焼き上げます。


そして、この頭。さっと醤油をくぐらせこんがり焼き目をつけてから、出汁と一緒に蒸して骨蒸しに。ほっこり蒸しあがった頭本体も美味しいのですが、出汁に甘鯛の旨味が染み出てすべて飲み干したい美味しさになります。どこかのラーメン店のように、鶏がらと豚骨と鰹節を三種類、五種類の昆布に野菜を数十種類、で15時間かけてつくるスープ・・・・などというのとは対極にある、素材だけに頼った極めてシンプルなスープなのです。もちろん使う昆布も、鰹節も、塩も、醤油も、蒸すための機械も盛る器も時間をかけて選択されてきたものではあるのですが、そんなものは「こだわり」ではなくて職人的には日々当たり前のように突き詰めている仕事の一つです。例えば、塩が普通のものであっても、この甘鯛の素材の前では駆逐されてしまうほど素材の力が素晴らしい。もしかすると、「こだわり」とかいう戯言のなかで職人の技術が一番後回しになっても素材が自然に一皿を美味しくしてくれるのです。こういう魚を釣り上げてくれた漁師さんと回してくれた魚屋さんと甘鯛に頭をたれて「美味しくなってね」とお願いしながら蒸し器の中へいれるのです。すると私などが作っても美味しくできてしまう甘鯛です。


魚好きにお出しすると、猫も諦める・・・・というほど完璧に骨だけが皿に残り、魚も浮かぶ瀬があるな、と嬉しくなります。