ディナー・ショー


年末ともなれば各大ホテルではディナー・ショー花盛りであります。


有名ホテルはクリスマスに向けて、実力派と呼ばれる歌い手をここぞとばかりにてんこ盛りにします。


今や、大きな忘年会パーティーが望めないホテルにとっても、TVでそこそこ有名な歌い手の名前を傷つけにない態のいい地方営業ととしてもディナー・ショーは定着しています。


20年前、私にとって唯一の思い出となるディナー・ショーに出かけたことがありました。地方ホテルの本格的なディナー・ショーなんてまだあまり聞いたことがない頃、ジャズ歌手ナンシー・ウィルソンのディナー・ショーが奇跡のようにあったのです。


エラ・フィッツジェラルドもサラ・ボーンもカーメン・マックレーもまだ現役で活躍していた頃、ナンシー・ウィルソンはエラ・サラ・カーメンとはまた別格の大御所でした。黒人ジャズ歌手としては例外的に美しくゴージャスで、いかにも「ディナー・ショー」の雰囲気にピッタリのナンシーのステージは、それはもう夢の世界。大きな会場で、カウント・ベーシーと来日したときに観たナンシーの数倍ステキで、田舎モンの私には、貴族にでもなったような満ち足りた時間を味わうことができたことをいまでも鮮明に思い出せます。


当時はホテルの料理も「ホテルのフレンチ」というだけでご馳走・・・・という時代でした。フランス帰りのシェフのビストロのようなこじんまりしたフレンチはあっても、いわゆるグラン・メゾンはほとんど見かけなかった時代、ホテルのフレンチこそが王道でした。


王道のフレンチと、コンサートでしか聴けなかったスーパースターの歌声、バブルのバの字もない頃の贅沢な時間でした。


その後、営業色の強いディナー・ショーはいくらでもあっても、このクラスのディナー・ショーは経験したことがありません。


あのときの三万円、今の時代ではそこそこクラスの歌い手お笑い芸人価格です。