悦楽主義の至福


日本料理にしてもイタリアン、フレンチ、中華にしても料理店にでかけるのは美味しいものを食べるため?、美味しい酒を飲むため?・・・・どちらも正しいのですが、最終的には「楽しむため」に出かけるのだと思うのです。


料理店にはそれぞれの値段設定とそれぞれの特徴があるのですが、店はみなお客様を楽しませることを最重要に考えなくてはいけません。


一方お客様も「今日は楽しんでやろう」という意気込みがあるほうがいいに決まっています。店側客側の双方の「楽しませよう」「楽しもう」思いが一致したときに初めて至福の時間を得られるのです。


概して日本人はこの「楽しんでやろう」という意欲を見せることが下手です。楽しませてもらえるのが当たり前・・・・とあくまで受身であったり、こちらを料理屋風情と軽く見て鼻をくくったような態度を崩さない方もいらっしゃいます。最初から最後まで笑顔ひとつ見せない方もいらっしゃいます。


評論家山本益博氏は、批評をするしないに関わらず、一見で来店する店でも「その店の最上の客になろう」という努力をするそうです。「さあ、批評してやろぞ」ではないのですね。素人グルメ評論家のように、店の料理からサービス、内装、器それぞれを最初から批評するつもりで見えるようなお客様に「楽しもう」という気持ちがあるのだろうかと疑問に思うことがあります。


まず、ご一緒のパートナーなり、接待先なり、家族なり、友人との一時を楽しもうという気持ちを持つことが一番大事なのです。そういう気持ちはすぐに私達には通じ、そういうお客様にこそより楽しんでいただこうと心を砕くのが人情です。


この店のこの料理よりあっちの店のほうが美味しいね・・・・とか


この店の酒の品揃えはなってないな・・・・とか


と、店を否定的にとらえることだけを話題にしているグループに「楽しもう」の雰囲気が生まれるはずはありません。


パートナーやグループのことを気遣い、和やかな話題と笑顔が自然に出てくるように心がけるお客様こそが料理店を楽しめるのです。


・・・・・などというお話は本来私たち店側からするべきではないのかもしれません。お客様に「楽しむための努力をせよ」と押し付けるのはある意味本末転倒。「どうぞごゆっくりどんなお客様も私どもが楽しませてさしあげげます」と表向き言っていなくてはいけません。


でも、現実には「さあ今日は楽しんでやるぞ」というお客様こそがいい時間を過ごされ、事実お得意様は例外なくそういう方々ばかりなのです。