スローフードは我街にあり


スローフードがメディアで脚光を浴び、スローライフに拡大し始めたとき「あっ、これはもうメディアと大企業のマーケッティングの格好のお題目になってしまう」と感じたとおり、スローライフのシチューなるものが大手食品メーカーのインスタント食品で発売され始めました。


以前にも伏木亨さんのコラムを通じてスローフードのお話をしたことがあります。


イタリア ブラで始まったスローフード宣言はファストフードのアンチテーゼとして唱えられたもので、企業の利潤追求や大量生産、インスタント化、経営効率などとは相容れないところにあります。


かといって、ヨーロッパ発だからと、休日にコトコトポトフでも煮込むとか、ブランチにゆっくりパスタを楽しむと若いおねーチャン向けのステキなライフスタイルの提案でもありません。


「食事くらいはゆっくり楽しもう」とか「伝統的な食材をちゃんと見直そう」とか「質のよい素材を提供する小生産者を守ろう」とか「子供たちを含め、消費者に味の教育を進めよう」とかいうお話のはずで、身近なところで言えば、朝出汁をちゃんとひいたお味噌汁におばあちゃんから続いたヌカヅケのお漬物を添えるという処から始まるのです。


で、
昨日私の住む肴町のことを振り返ってみたら、まさに灯台下暗し、我街はスローフードに溢れていました。


いさおチャンの処やりゅうチャンの処で鰹節や昆布を買って出汁をひく。乾燥椎茸やひじき、高野豆腐をちゃんともどして焚く。カズノリさんの処で買う地物のジャコやシラスを食卓に欠かさない。けんチャンの処の糀で作った自家製で安全な味噌を使う。甘酒を作る。増井さんの処で国産のお豆を買ってちゃんともどして焚く。シンタロウの処で買った野菜で煮物を作る。


歩いても三分で通り過ぎてしまう通りで、ほんの150mの範囲の中にすべての店があって、どこもが三代以上受け継がれ、80年くらいの歴史を自慢したら小ばかにされてしまう小さな街です。


だれもスローフードなんて口にしたこともありません。


が、
当たり前に受け継がれ、地道に商売を続ける人たちの中にスローフードがあるのです。大企業やメディアが消費者をたきつけるようなライフスタイルの提示の中にはスローフードは存在しません。我街にスローフードがあるのです。