お小言


初めてみえたあるお客様がお帰りになった後、テーブルの上にメモが置いてありました。


そこには箇条書きにしたお小言が書き並べてあります。


こういう形でのお叱りは初めてです。


一度お越しいただくと、お安い値段ではありませんので、手落ちが一つでもあってはいけないのですが、未熟者の私がすること、失敗は数限りなくあります。


細かい失敗があっても、「今日は気持のいい時間を過ごせた」と最終的に思っていただければ、その席は何とか成功といえるのでしょうが、「書き物」という形で苦情を残されたということは、このお客様には気持ちのいい時間ではなかったわけです。初めてとはいえ、残る形のお小言はへこみます。


長く商売をしていると、口にはされなくても「だめだし」を経験されたお客様はたくさんいらっしゃるわけで、気がつかないこともあるかもしれません。私自身が毎日反省ばかりしているくらいですから、ご迷惑をおかけていることはたくさんあってもおかしくありません。


ただ、苦情をクリアすることを念頭に入れた仕事や、怒られないための仕事という減点志向をしていると店自体が落ち込んでしまいます。


幸い(といってはいけないのですが)、私、極めて忘れっぽい性質(たち)です。下手をすると都合の悪いことはいとも簡単に忘れてしまいます。


忘れてもいいことは忘れ、肝に銘じなくてはいけないことは銘じてプラス志向に切り替えていきます。


しかし、いつもはご好評をいただく「三河産赤むつの若さ焼き」が×だったり、そこそこ人気の新生姜のご飯が×だったりするのはかなり辛い。


献立もお軸も器もすべてリセットです。