読む


地図を読むことに長けている方は、等高線が実際の山、谷のように見え、紙上の平面が立体として認識できるのだそうです。この場合「読む」という行為はA地点からB地点へ行くための道筋を辿るというのとはレベルが違います。


音楽でも、譜面が読めるというのは、譜面にしたがって音や声が出せるというだけではありません。♯や♭がどんなにたくさん並んでいても、譜面を読むことで頭の中に自然に音楽が鳴り響くものなのだそうです。指揮者がフルオーケストラの分厚い譜面を読んでいるときには、目を通して音を実際に感じているのです。譜面を読むというのはそういうレベルのお話なのです。


ちょっとニュアンスが違いますが、優れた料理人が書いたメニューを読むという行為も料理を選ぶためだけでなくて、メニューを通じて料理人の意思とか力量を推し量ることでもあります。


初めての店でも、メニューを読んで最初の一皿を見れば、料理人の力の80%は理解できます。


さらにメニューと単価を読むだけで、その店の経営姿勢と、食材の仕入れや使い方もわかるものです。当然味のレベルも想像できます。


車で一時間ほどの処にあるイタリアンレストランがいいよ・・・・とお得意様に教えていただいて出かけてきました。


メニューを見ただけでリご主人の素材への強い意志と、料理への意欲が伝わってきます。行列ができるチェーン店のような「和風○○」的なイタリアンの傾向は微塵も見えず、日本の食材を使ってもイタリアのテイストが崩れることはありません。


メニューを見た期待感は前菜の一皿が運ばれてきたときにさらに高まりました。メニューから読める料理人の意思はしっかり皿に反映され、一口食べれば味にももちろん現れていました。


こういう店でパスタだけを食べて料理人の評価をするのはつまらないことです。メニューに「俺のこの一皿を食べて欲しい」という欲求が見えるのですから。そういう造り手の意欲を読み取らなくてはいけません。


メニューの期待を裏切らない満足殿あるイタリアン・レストランでした。


「イタリアで数年間学んだことは料理だけでなくて、イタリアの空気そのものだと思います」とお話してくれたご主人の姿勢はメニューから読める中身通りでした。