ミュージシャンの日常


放送したことさえ知らなかったリチャード・ボナカメルーン出身ジャズ系ベーシスト)のBSの番組を、お客様が録画して持ってきてくださいました。


ボナのニューヨークでの日常にスポットがあてられています。


ボナはツアーで出かけている以外は、朝起きるとすぐ自宅スタジオで楽器を手にし一日中弾いています。


その姿は練習するというよりは、戯れるようであり、喋るようであり、呼吸するようなのです。


しかも出てくるフレーズはまったくオリジナルで、ネイティブなアフリカを感じさせるメロディーとヴォイシングで圧倒されっぱなしです。


上手くなろうとか、音楽の方向性を見つけようとかいう求道的なところは全く見えません。


天才は楽器を初めて触ったそのときから天才で、神から与えられた才能をそのまま表現するだけのように思えます。


ステージやCDの本番では素人にはわからない凄みが、日常やリハーサルで理解できることはよくあります。


以前にもお話しましたが、グレン・グールドのLDで、グールドが自宅でガウンを羽織ったまま練習する姿を映したものでも感じました。


一般的に練習と言うのは、譜面に書いてあるフレーズを上手に弾くために繰り返し弾くのが当たり前なのでしょうが、グールドのそれは、頭の中に完璧に出来上がっている音楽を、鍵盤上に表すための段階であって常人のそれとは全く違います。


打ちのめされました。これがアーティストと言うものなのだと。


ミュージシャン アーティストというのは日常から全てが表現者なのですね、きっと。


などと言うお話をボナを録画してくださった方とお話をしていたのですが、この地でも有数のアマチュア・ミュージシャンであるこの方だと、「P.メセニーのあのアルバムの何曲目のあのフレーズ」とか「スタジオ盤じゃなくてライブ盤の方のあの曲」とかいう仔細なお話でも難なく理解してくださるだけでなく、私など比べものにならないほど音楽の奥行きが深くて、楽しいことこの上ありません。手のひらの上で遊ばせていただいているって感じ。