シカゴ
一芸に秀で認められた人間が、皆の知らないところで修練をかさね、突然その新たな技を見せてくれたりすると、それはもう驚くものです。
ところが日本の芸能界なのでは、役者がちょっとタップをかじっていたり、楽器が少々いじれたりすると、人に見せるほどの水準でなくても、習っているという事実だけで努力を買われ持ち上げられたりします。
かなり昔のお話、ジャズ界の重鎮 渡辺貞夫さんがNHKの番組でフルートを演奏した折、それを見たフルートの師匠林リリ子さんが「まだ未熟な技術で人前で演奏してはいけない」とお叱りをうけた、という話を聞いたことがあります。あの渡辺貞夫さん〜林リリ子さんの並びで考えただけでその厳しさがひしひし感じられます。
今日見てきた、映画「シカゴ」のレニー・ゼルウィガーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズの歌と踊りはいきなり魅せつけられた、女優の驚くべき能力です。
レニー・ゼルウィガーは「エージェント」は始めて見た時、すでに顔だけでも演技できる・・・というほどの演技力がきらきら光っていた女優でした。歌や踊りなど夢にも思わない演技派という認識だったのです。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズにいたっては、エキゾチックな美しさや、マイケル・ダグラス夫人の印象ばかりが強くて、今回の「シカゴ」で見せたパワフルでセクシーな歌と踊りをレニー以上のレベルの高さで披露するなどほとんど別人を見ているような驚きです。
がしかし、彼女たちの知られざる努力以上に、女優をミュージカルスターに作り上げたトレーナーやそう見せる照明や撮影、編集、構成、音楽、バックアップの群集、そしてなによりボブ・フォッシーの演出と振り付けという、映画まつわるすべてのスタッフの高い技術に感嘆せざるをえません。ハリウッドをブロードウェーの底力です。
主演の二人を取り巻く脇役の歌や踊りを見ていると、おそらくブロードウェーのトップスターであろう面々がそろっているのであろうと想像するのですが、映画としてみるとどんなに歌や踊りがうまくても、女優としてのオーラの差が明らかにレニー・ゼルウィガーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズをきらめかせています。
つまらないミュージカルというのは、ストーリーの中で唐突に歌が始まるという印象がぬぐえないものですが、「シカゴ」にはそんな印象は微塵も感じられません。物語の脚本と構成、カット割りの素晴らしさは、アカデミー賞に何部門もノミネートされたことが当然と思えます。
こういうのを目くるめく世界というのでしょうね。