同時


新しく始めたランチなどの場合、複数のお客様の別々の注文でも、一緒に召し上がっていただけるように同時に出すというのが基本です。


スタッフ全員がランチになれないものですから、ちょっと忙しくなると微妙なずれが出てしまうのですが、同時に出すことは常に意識していなくはいけません。


注文された方は気に留めていないかもしれませんが、気遣いのある手馴れた店では、決して一人が食べ終わった頃もう一人の注文品が出てくるなどということはないはずです。


仕上がる時間や手間がすべて違う料理を、調整しながら同時に仕上げるのはそれなりに難しいのですが、お客様に「先に食べてて」と言わせたり、他の人の注文品が出来上がるまで、お料理を目の前にじっと待たせておいたりするようでは料理屋としてはなんともつらいものです。


逆に夜のコース料理では、ほとんどの方が予約の時点でコースを決められますので、”料理を同時に出すな”というほうが難しいのですが、先日こんなことがありました。


ご接待で使われた6名のお客様、接待される一番お偉い方が最初にお見えになり、時間も遅かったことからあまり空腹で、先に一人だけ料理を出して欲しいという注文でした。接待する側は他の方が見えるまで一緒に食べるわけには行きません。お一人が黙々と食べてしまいます。しかも、お酒もあまり飲まずに結構な早食いです。


料理が5品くらい、すでにコースも終盤に差し掛かった頃次のお二人が見えて、食べ始めます。もう一人が見えていないので、接待側はまだ食べられれません。


最初のお一人はもちろん、次のお二人もほとんど召し上がり終わった頃最後のお一人が見えて、接待先のお客様もやっと召し上がることができました。しかし、偉い方々が食べ終わっているものですから待たせてはいけないと、急いで食べなくはいけません。


6名一つのお席に三回のコースを出したようなものです。


お忙しい方々でしたから、私の方ではいかんともしがたい状況ではあったのですが、一緒に食べるという食事の大切な楽しみは残念ながら損なわれてしまいました。


お客様のご指示ですからおっしゃるとおりにしなくはいけないとはいえ、こういうのはお出ししていてもちょっと辛いものです。