”FOOTSTEPS of OUR FATHERS”


レコードがLPだった時代、LP一枚45分程度といのは、集中して聞くには丁度いい長さでした。


CDになってからと言うもの、CDの一枚70分以上では気持ちを高めないとなかなか集中力を持続できなくなりました。年のせいかもしれません


現代ジャズ界最高峰のジャズ・サックス・プレーヤーであるブランフォード・マルサリスの新譜”FOOTSTEPS of OUR FATHERS”を聞き始めたとき、これは中途半端に聞いてはいけないほど密度の高いアルバムであると、最初のワンコーラスだけでも響くものがありました。70分以上の集中ができるときに改めて聞かなくてはなりません。


このアルバムは往年の名演で知られる曲を、ブランフォードのレギュラー・カルテットが演奏するものです。なんといっても驚くのが、ジョン・コルトレーンの「至上の愛」と、ソニー・ロリンズの「自由組曲」をそのまま取り上げていることです。名曲を一曲レパートリーに加えると言うことはジャズでは頻繁に行われているのですが、名アルバムをそのまま全曲取り上げると言うのはまれなことです。増してや「至上の愛」「自由組曲」は代わるものがないほどの超名盤です。大げさに言えば、録音の最中に神が舞い降りてきた瞬間にできた歴史的なアルバムなのです。しかも、ロリンズ、コルトレーンという全くタイプの違うプレーヤーの曲でもあります。


ファンでない方には何のことか理解しにくいことかもしれません。例えば料理にたとえると、40年前の「吉兆」さんと「千花」さんの名献立といえるものを、今の料理人がそのまま再現し、さらに素晴らしく出来上がった・・・・って感じでしょうか。普通なら挑戦することすらおこがましいのに、真っ向勝負してさらに新鮮さを感じさせてくれるのです。


これほどの試みを聴いたことがありません。


久しぶりにジャズの新譜を聴いて背筋がゾゾゾ・・・・としました。


ブランフォード・マルサリスのスタジオ録音とは思えないような白熱したソロと、ジェフ・ワッツの激しく舞鼓するようなドラミングを聴いていると、40年を経た今、再び神は舞い降りた・・・・と感じます。