真っ当な仕事


お客様からお土産に頂戴した恵那の栗羊羹と栗キントンがともかく美味しいのです。


栗キントンは本場中の本場ですから名店がしのぎを削っているようで、中でもいただいた店のものは栗の香りだけでなくて果物の香りのようなニュアンスまで感じられます。


栗キントンは秋になれば全国どこの和菓子屋さんでも必ず売り出しますが、この栗キントンは特に職人の力を感じさせてくれました。栗の質はもちろん、分量のバランス、程よく舌に残る甘味どれをとても上質です。


栗キントンと言う何の変哲もないも仕事を真っ当に美味しく仕上げておられるのが素晴らしい。こういう仕事ができるようになるのが、私の職人としての目標です。


「当たり前にどこでもメニューの載る○○というのは本当はこんなに美味しかったのか」近頃のご時世ではそれがとても難しいですし、それをお客様に感じていただくことも難しくなっています。


昨日、TVである街のパスタ屋さんの紹介をしてました。


10月までの限定で「ポルチーニのパスタ」¥1400
¥1400でフレッシュのポルチーニが使えるのだろか?と思ったら、水煮の冷凍にしてあるものを使うのだそうです。冷凍ならば季節限定にする意味もないですし、本当のポルチーニ茸の美味しさが味わえるのだろうかとちょっと不安です。


またある店では「海胆と海老のパスタ」¥1300
ソースにはアメリケーヌソースに、色を見ると練り海胆らしき海胆を混ぜて、当然冷凍の海老、さらにランプフィッシュの卵をキャビアに見立てて乗せてあります。冷凍の海老を使うところを見れば、アメリケーヌソースも自分で作ったものではなさそうです。


きっとどの店もお客様のニーズに合わせて作られた献立と客単価で、イタリアン素人の私がとやかく言うこと自体どうかと思うのですが、私が客の立場であれば、同じ値段で真っ当なポモドーロソースか、乾燥でもいいからポルチーニ茸入りクリームソースのフリッジでポルチーニの凝縮感を味わいたいと思うのです。


日本料理でもよくあることです。目新しさと、値段との折り合いを目指すばかりに、本筋と確かな美味しさをどこかへやってしまうことが。


作る側も食べる側も、普通に美味しい物がどういうものなのかさえ忘れてしまいそうなのが辛いです。


真っ当に美味しい栗キントンを食べてそんなことを思いました。