やっつけの名盤


サー・ローランド・ハナ(掲示板で話題になった)というピアニストがいます。


サー(Sir)というのはカウント、デュークなどのようにミュージシャンが本人でつけた称号ではなくて、ハナらアフリカ、リベリア共和国で大統領から授けられた本物のSirなのであります。


初めて彼の生のピアノを聞いた1974年サド・ジョーンズ-メル・ルイスオーケストラでも、リーダーのサド・ジョーンズがもっとも多くソリストとして紹介するローランド・ハナも必ず「サー・ローランド・ハナ」と呼んでいたものです。


1974年のサド・メルオーケストラの日本公演の時、ハナと親しくしていたジャズ評論家悠雅彦さんがプロデュースしてできた”1×1”(ONE by ONE)というアルバムがあります。


悠さんは実力に見合ったリーダーアルバムが存在しないハナのために、来日中になんとかピアノ・トリオでレコーディングをしようとレコード会社数社に掛け合いました。しかし、どこからもハナの知名度ではリーダーアルバムを作る事を承知してくれなかったそうです。


そこで、悠さんは写真家阿部克自さんとなんと自費で録音することを決意しました。


日本中をまわったサド・メルオーケストラの過密スケジュールをぬっての録音。自費での少ない予算。


当初トリオでの録音の予定も、ベーシスト ジョージ・ムラーツとのデュオのなり、二人のミュージシャンは睡眠時間を削ってレコーディングに望みました。


もうワンテイク録音したくてもスタジオが時間切れだったり、ムラーツの弓がマイクにぶつかる音が入っていたり、ハナが疲労でダウンしたために急遽録音したムラーツのベースソロが入っていたり・・・・じっくりとテイクを重ね、いい演奏を録音すると言うのとは程遠い過酷な条件のなかで、驚くような名盤ができあまりました。これほど緊張感のあるデュオアルバムを私はしりません。私が知る限りハナ、ムラーズ二人のたくさんのアルバムのなかでダントツに優れた演奏です。


演奏者の気合とか一度限りの即興演奏というのは、いい条件を積み重ねたから出来上がるというものではないのです。それがジャズの醍醐味です。


すべてのジャズファン、さらに室内楽ファンにもお奨め・・・・と言いたいところなのですが、多分すでに廃盤。私の宝物です。