俎板の上の鯉


静岡のレストラン「ジャンティ」さんの女性メートルで、チーズ、ワインの世界で高名な久保田敬子さんが、料理専門誌のチーズの連載企画をお持ちです。料理界のシェフを招いてチーズとワインの組合せを縦軸にサービスや料理のお話など様々な対談をするというものです。


これまでも対談相手にはその世界では有名なシェフばかりが登場していたのですが、なぜかチーズの世界はもちろん、料理の世界でも全く無名の私にお相手のお声がかかってしまいました。日本料理代表・・・・ではなくて、日本料理の世界でもチーズを面白がっている変なヤツがいる・・・ということで、ワインとチーズ、日本酒とチーズという取り合わせで二回分の対談をさせていただきました。


なにしろチーズが美味しいことに気づき始めたとはいえ、何種類も食べてきたチーズの名前さえうる憶え、産地や製法、特性にいたっては聞いても話は右から左へ耳と通り過ぎるという情けない知識しかありませんから、久保田さんを前にすれば全く俎板の上の鯉、好きにしてくださいと、貧弱な感性で感じたままをお話するしかありません。そう心に決めていたのに、いざ対談が始まってみると、チーズだけでなくワイン、果ては本来私の専門分野であるべき日本酒にいたるまで、久保田さんのお話は深遠を極め、いっしょにお手伝いでお出でになった久保田さんのパートナー、凄腕ソムリエの中川さんまで同席されて、二人の辣腕プロフェッショナル美女を前にしては、俎板の上の鯉はいつ料理されたのかもわからないほど見事に手のひらの上で転がされていました。


さらに、この対談を企画する編集者はずっと以前から注目しつづけていた河合さんというその道では有名な方で、皆さんのお話を聞いているだけで、自分の「井の中の蛙」ぶりが痛いほど身にしみます。対談にご指名いただいた光栄よりも、まさに第一線で認められている方々のお話に触れることができただけで私にとっては有意義な一日でした。


きっと、河合さんの名編集にかかれば、私の無能ぶりも上手に隠してくださると期待しているんですが、その結果は11月、12月に「専門料理」という雑誌に載る予定です。もしかしたら、コイツじゃあ誌面載せられん・・・とボツになったりして・・・・・。