やめて欲しい


京都 カウンター割烹の最高峰「千花」さんに伺ったのは数年前、ほんの2回ほどですが、その圧倒的な素材を生かしきった料理の数々は、今の私がどうあがいても近づけそうもない高みにある料理でありました。


名人とうたわれた先代のお話も伺えて、先代曰く「もう技術は息子たちのほうがずっと上です」と。息子さん二人がお父さんの築かれたものを微塵も汚すことない立派な仕事をなさっていました。


そのご兄弟がお店を分けられたと聞いたのは半年ほど前だったでしょうか。お兄さんが「千花」をそのまま受け継ぎ、弟さんは「千ひろ」という同じようなカウンター割烹を新たに開かれたそうです。


力のあるお二人がそれぞれに素晴らしい、と思っていたのですが、今日、銀行で何気なく見ていた週刊誌に、その二店を取り上げて比べ面白おかしく批評する記事を目にしました。


片方に見るものがなく、もう片方にはきらめきを感じた・・・・というような内容で、点数にすると「誘われても行く気」にならない」と「無理をしてでも行きたい」の違いです。しかもおちゃらけた文章に感覚的な批評。


有象無象、匿名ネット上の愚にもつかないグルメ批評ならともかく、相当部数の全国誌でこういう名店を芸能人を批判するようにコケにするのはやめていただきたい。普段なら、どうでもいい安売り店をたいした取材も無く、取り上げるくらいが関の山の週刊誌なのにどうしたことでしょう。こんなひどい企画を堂々と載せてしまって。


私達職人は比較されるために仕事をしているのではありません。星の数や点数で店を評価するのにはなれましたし、心ある批評は職人の向上心を刺戟することはありますが、兄弟の店を取り上げてどっちがいいとか悪いとか比べるのはいかにも趣味が悪いものです。


「千花」さんご家族の心痛を思うといたたまれません。


興味本位で下世話ネタにさらされるのも仕事のうちみたいな政治家や芸能人と同じレベルで、職人を見るのはやめて欲しい。


日本の宝といってもいいほどの名店なのですから「千花」さんは。