料理のペース


私ン処はお任せのコース料理しかありませんので、料理を出すタイミングにはとても気を使います。お酒のタイミングも同様です。


大概の場合、最初の飲み物の飲み具合と、前菜からお碗へと進むときのお客様の食べ具合で、そのお客様のペースがつかめます。


はじめのビールがあっという間になくなる方と、お造りまでいってもグラスに残っている方では後のお酒のお勧めの仕方は違っています。


前菜、お椀をひとつ残らずさっと召し上がる方と、前菜の中の一品を残してなかなか召し上がらない方、お椀が冷めても全く気にしない方では次の料理への進み方はもちろん違います。


硬い雰囲気の接待の方、気の置けない仕事上のお付き合い、お友達同士、ご夫婦、うまくいっている恋人同士、これからうまくいきたい男女、同伴、訳アリのカップルなどなど各々のシチュエーションで料理のペースも想像できるものです。さらに、お客様へのお声のかけ方一つとってもそれぞれのお客様で気の使い方が違ってくるのは当然で、マニュアル化はできないものです。


よく困るのは、何人かでおいでになって、一人だけ食べるペースが違う方。もしくは一人だけお酒飲むと全く料理に箸をつけない方。折敷の上に皿がどんどん増えていってしまいます。もちろん、皆さんのペースを見ながら料理を出していくですが、すぐに食べてしまう方といつまでの食べない方ではスピードが驚くほど違うのというのが時々あります。


一番印象的だったのは、ある女性ばかり20人くらいの会。


単に松花堂弁当を召し上がっていただくだけのお昼の会食でしたが、全員が食べ終わっても一人だけゆっくりゆっくりと他の方の三倍の時間をかけて召し上がっている方がいました。ゆっくりと食べるというよりはおしゃべりが忙しくて箸を進める時間がないといった風でした。それでいて、自分だけ食べるほうが取り残されているという自覚がない。


当然、器を下げてデザートを出すタイミングは大きくずれて、場の雰囲気も少々ギクシャクしてしまいます。でも、やっぱりご当人にはその意識はないようでした。


まだ日本料理のコースの場合は何皿を折敷に並べても問題はありませんが、フランス料理のコースなどどうするのでしょう。私がフレンチレストランに行く場合にはメンバーを選びますので、一人だけ食べずに飲むばっかりなどという方は皆無で、そんなときの対処の仕方を見たことがありません。一流フレンチレストランの対処法を拝見したいものです。