アトランティスの心


良質な映画のことを語るのは難しいものです。そこにはたくさんのメッセージが含まれていて、その映画の本当の素晴らしさを的確に表現し、伝えるにはそのものを見てもらう以外にはありえないと思うのみです。


スティーブン・キング原作の「アトランティスの心」(HEARTS IN ATLANTIS)は子供の心を描くという意味では「スタンド バイ ミー」に通じ、人の心の奇跡を語るという意味では「グリーンマイル」「ショーシャンクの空の下」に通じます。


家庭的には恵まれない少年と、にじみ出る教養とか豊かな人生経験を感じさせながらも正体の知れない不思議な老人との触れ合い・・・・・よく映画で取り上げられそうなスートリーながら、スティーブン・キングの物語力とスコット・ヒックスの演出力で上質な仕上がりになっていて、静かに見る人の心を高めてくれます。


アンソニー・ホプキンスが演じる老人はまさにツボにはまっているのですが、考えてみるとこの名優が演じ分けてきたキャラクターは一つ一つが素晴らしい。ここで演じる老人、ちょっと前の「羊たちの沈黙」「ハンニバル」のレクター博士、「日の名残」「ハワーズエンド」などのジェームス・アイボリー作品、そっくりだった「ニクソン」「ピカソ」、「ジョー・ブラックによろしく」の品位のある実業家などなどなど。すべて作品がホプキンスでなければならないと思うほどの役つくりをしていて、しかも、多出演にもかかわらず、やっつけ仕事の出過ぎというイメージを与えない重厚感があります。


同じようなことをデイビット・リーン作品でのアレック・ギネス感じたのですが、シェークスピアを背景にもつイギリス人俳優の凄みなのでしょうね。


映画で描かれる1950年代後半〜1960年代(たぶん)のアメリカというのは、私にとっては当時TVのドラマで見る憧れでした。広い芝生の庭にに囲まれた小奇麗な家、TVのあるゆったりしたリビング、驚くほど大きな冷蔵庫とオーブンのある台所、力強くいつも正しいお父さん、やさしく料理上手なお母さん。すべてのアメリカ家庭がそういうものだと思い、日本人は一生到達できない夢の生活であったのです。その羨望にも似た憧れは当時を生きたものでなければわかりません。


ところが、今映画を見ると、白人でも貧しい家庭があって、母子家庭があって、飲んだくれ博打好きのお父さん、子供への愛情が歪んだお母さんもいたことがわかります。実は当たり前のことなのに、昔の理想的アメリカへの強い憧れが心に残っている私にはそのことが新鮮に思えます。


それでも、映画のなかで「土曜日なのに仕事にいくの?」という台詞を聞いた時、もうそのころから土曜日日曜日は休みだったのか・・・・と思ってしまいました。その頃、私ン処では月一回の休みだけ、週休一日になったのがそれから15年後、この業界は未だ週休二日には程遠い言う現実。などと関係のないところで妙な感慨にふけってしまいまいた。