奇跡の詩人


4月28日 NHKの番組「奇跡の詩人」をご覧になったでしょうか。


脳に障害がある11歳の少年がお母さんの支えで文字盤を指してコミュニケーションをとり、詩まで発表し、その詩が大きな感動を呼んでいるというお話です。


たまたま私は興味を持ってVTRにとり、見たのです。


障害を持つ方が、様々な方法でコミュニケーションをとるというのは知っていましたし、病気の種類にどういう違いがあるのかは知らないながらも、ホーキング博士のような天才も存在することを考えると一概には否定できないな思ってはいたのですが、VTRを見る限りでは文字盤をさすスピードや話の中身、母親の支え方を見るとと「ほんとかよ?」というのが正直な気持ちでした。


インチキというよりは、障害を持つ子供を持った母親の切ないような願いが、話を膨らませてしまったのではないか・・・・でも天下のNHKがスペシャルで話題にするのだし、大手出版社まで絡んだ話だから、といつもながら大きな権威に全く弱い板前なのでありました。話の取り上げ方は民放でよくある超能力モノや心霊モノ、UFOモノと訳が違うのです。


という間もなく、やはり問題になったようで、こんな話題も目にする事態となっていたのです。


そんなモヤモヤした気分をこの方が一掃してくれました。


ちょっと長いのですが、有田さんご自身のご承諾をいただいた上で、そのまま引用させていただきます。

講談社から出ている「脳障害・天才少年の魂の記」「奇跡の詩人」とうたった単行本を読んだ。怒りがわいてきた。内容にではない。ご両親の希望、願望、愛情がこのような形で詐欺的に表現されることにだ。無惨だ。私は断言する。12歳の脳障害児がこのような大人言葉の本を書けるはずがない。いや一般的な発達をした12歳でもこんな子どもらしくない文章は絶対に書けない。いや書かない。これは議論以前の問題だ。文章と文体というものは、それぞれの人生体験に対応しながら、段階を追って深まっていくものだからだ。社会経験が乏しい発達段階において、こんな文章を12歳の子どもが書けるわけがない。


 しかし、そうした批判に対してはちゃんと逃げがある。「子どもらしくない文章だ」と言われたときのこと。「それは私の問題ではないのです。その人が私を勝手に作り上げ、勝手に想像して、自分が気に入らなかったりする部分をそう感じてしまうのですから、しかたがないことなのです」。大人がこんな内容の本を書いても、まともな出版社なら出版しないだろう。しかし脳障害をもった子どもが書いたというのなら出版しようというものが出てくるだろう。ある関係者は語っていた。「あれは『五体不満足』のようなヒットを狙っていたんですよ」と。講談社の編集担当者(古屋信吾、青木和子両氏)とNHKの担当者は、この単行本の執筆過程を詳細に明らかに説明すべきだ。


 元原稿は誰が書いたのか。それが文字盤によるというのなら、その原稿と「執筆過程」は照合するのか。まずは単行本のもとになった原稿を公表すべきだろう。ほんとうに脳障害児が書いたことをどう説明できるのだろうか。私は93年に統一教会系病院を絶賛したNHKのひどさを昨日の日記で書いた。しかし、今回の問題はそれを上回ることだろう。ある脳障害児のお母さんからメールをいただいた。了解を得たのでここに紹介する。東京都在住のお母さんの訴えだ。


 今週の「奇跡の詩人」疑惑の記事を見て、あわててルナ君のホームページや関連の掲示板を読み、ショックを受けました。


 私は10歳の重度心身障害児(重症児)の母です。


 生まれてすぐから痙攣発作をおこし硬膜下水腫(脳が萎縮)、早期乳児てんかん性脳症と診断され入院して、薬の調節や手術をしました。1歳過ぎて退院後、脳神経専門の小児科や訓練に通院する一方で、「なんとかして治してやりたい」とあらゆる民間療法(ドーマン法も含めて)をためした時期がありました。今思えば、このころが一番精神的に追いつめられていたようです。


 都の療育センターに通い、同じ立場の母親と毎日話せるようになってだんだんと、障害があってもそのままでもいいのだと思えるようになりました。小学校に通うようになって初めて、自分の時間ができ、気分転換ができるようになると、ずいぶん気が楽になり、このごろは、障害児だからウンヌンーなんてまるで考えることもなく、車椅子でじろじろ見られても、気にしないようになりました。普通の明るい家族やってるつもりでした。


 しかし「奇跡の詩人」の件で、久しぶりに悔しくて号泣して眠れませんでした。
ルナ君が我が子の症状とよく似ている事、ドーマン法をやるぞと夫をフラデルフィアまで行かせたのに結局すぐに挫折したこと、ニューエイジ系の本にはまっていた時期が私にあったことなど、他人事とはとても思えません。


「奇跡の詩人」がいるわけ無いのは、私たちには自明のことです。奇跡を望んで望んでのたうちまわって、かなえられなかったことです。私だけではなく、母親仲間もみんなそうです。その奇跡が真実ならば、私は自分のやってきたことに激しく後悔、自己嫌悪せねばなりません。チャンスの側まで行って手ぶらで帰ってきたなまけものと。


 でも、どう考えてもあの「奇跡」は、ありえない事なのです。脳性麻痺や筋ジスの人は体のコントロールができないだけで、知性は保っています。彼らは、ボードなどで意志を表す事ができます。
しかし、乳児期に難治性てんかんで脳萎縮だった子は、身体障害はなくとも、知的障害は必ずあります。重症児にもなりやすい。


 重症児は、心と身体の両方の発達がものすごくゆっくりで大きくなります。
ある方は30歳をすぎて寝返り始めたそうです。うちも4歳で初めてにっこり笑顔をみせてくれました。


 重症児の親が、ドーマン法をやっても、新興宗教に入っても、本を出版しても、個人的にやるのであればかまわないと思います。ただ、まわりの人に迷惑をかけたり、よく似た症状の仲間をひっぱりこもうとするのは許せないのです。


 だから、天下の「NHKスペシャル」が、それらの宣伝をしてるとは、信じられませんでした。NHKの制作者?に電話しました。


*ドーマン法は賛否両論で医学的根拠がなくトラブルも多い
*母親の思想背景を調べる
*重症児の家族への影響を考慮する
*責任者が真剣に説明検証する


そう、せつにお願いしました。
宗教思想の疑惑をしつこく聞いたのですが、
「本人(ルナ君!)と家族が否定している、信じている。」でした。


NHKにメールも2回出しました。


 とにかく今日のスタジオパークでの釈明、謝罪を待っていたのに、責任者は出てきましたが、
なんと「インチキではない証明」を始めたのです。ルナ君の様子、動きを見て、絶望感さえ覚えました。この子は、どうみても娘の仲間、重症児です。上の娘(高1)も、「どう見たって、自分で書いてないよ。文字盤が指に近づいてるし、母親、手掴んでるじゃん」と言いました。ルナ君の手が、赤く腫れ上がっているように見えました。手の大きさは似ているのに、うちの娘の手は白くて細い。ルナ君が、かわいそうでかわいそうで、胸がつまりました。


 やっぱり、これはインチキです。
インチキを検証するのに、比較サンプルが欲しいのなら喜んで娘を連れていってあげましょう。あのこっくりさんみたいのやりますよ。普段あのように動かしてないので娘の腕や手が硬くやりにくいでしょうが、練習すれば、私達だって同じに見えると思います。


 ルナ君を助けてあげて下さい。あの母親は、追いつめられたあげくおかしくなっています。あわれで、見ていられません。学校へ行かせてあげて、遊んだり歌ったり友達とふれあって欲しいです。おいしいもの(うちの娘は甘いもの大好き)食べさせてあげてほしいです。そして母親にも、同じ立場の仲間といっぱいぐち言って、お茶やカラオケに行って騒いで歌って笑わしてあげたいです。


 この2日、怒り過ぎて眠れず食欲も無かったのですが今日の釈明で、体中から力が抜けてしまいました。


アメリカではこうした疑惑がすでに起きていたようだ。海外からの反響もあるので、改めて紹介したい。


5月13日から15日にかけての文章を拝見して、批判を展開する時の肝っ玉の据わり方、確かな論理性などネットを運営するものとして大変勉強させていただきました。


それにしても障害を持つ子供をもつ母の言葉(mail)はあまりにも重い。


一方同じ境遇の母がTVで見せた(奇跡の詩人)、リハビリのときに子供の辛さを紛らわせるために歌を歌って聞かせている姿には、生理的に受け付けない胡散臭さを感じてしまったのです。


同じ年頃の子供をもつ親としてやりどころのない気分です。