新しい風


日本酒の品揃えで有名な酒屋さんに伺うと、今紹介してくださる酒の多くは¥2000以上\4000未満の価格帯のものです。


「ウチの場合は美味しさに説得力があればいくら高くてもかまわないですから」と申し上げても、「この辺は値段の問題じゃなく勢いがありますから」とおっしゃいます。


というわけでいただいてみた


妙の華 英(はなぶさ) 無濾過あらばしり生原酒 (三重)
大治郎 迷酒(まよいざけ) 純米吟醸 無濾過生原酒 (滋賀)
佐久の花 山廃純米吟醸 無濾過生 (長野)


三本に共通する「無濾過」「生」の濃厚な味わいと雑味も含めた生のふくよかさ、酸味とコクのバランス。


同じく共通する極小ともいえる蔵の規模。どれも150-300石という規模で、杜氏さんと蔵元のご家族の数人プラスαで造る大きさです。お客様として見える量販店ご主人のお話では「ウチでは大手のメーカー一社の酒だけでも年間千石売ります」というのですから、酒屋さんで売られる一銘柄販売量の1/3以下・・・・蔵の規模が想像できます。


共通する若い力。30歳台の息子さんが蔵に帰ってきたことで、新しい酒への意識変革が着実に進んでいます。妙の華などは若奥様も積極的に造りに参加していると聞きます。


共通する酒屋さんとの信頼関係。どの蔵も確かな目をもつ酒屋さんに見つけられ、両者が育ち育たれる良好な関係をもち始めています。


共通する高いコストパーフォーマンス。何も言わずにおだしすれば、一升4000円―5000円といっても充分通用する味です。


おそらく、小さな蔵の真正面を向いた存続への危機意識が造らせたお酒ではないかと思います。それほどの迫力を感じます。


これまでも、お手頃で美味しいお酒を探し、メニューに載せることは私の大事な仕事のひとつでした。


磯自慢 特別本醸造
十四代 本丸
田酒 特別純米
飛露喜 山廃純米
天の戸 美稲(うましね)
などなど


中にはお手頃であっても人気の高さと希少性で入手が難しいお酒もあるのですが、これらの酒が初めて現れたときにはひとつの新しい世代の登場を感じたものでした。


先の三本のようなお酒に一気に出会うと、これはもう時代の潮流ではないかと思うのです。


が、
これらの蔵が、美味しいお酒を造りだしているとはいえ、料理店で言えば、いわば脚光を浴びそうな街のビストロとでもいう存在です。日々気軽に使うには充分すぎるほど美味しいのですが、そんなビストロがグラン・メゾンになれるかどうか。お手頃で美味しいものだできるからといって、即、純米大吟醸斗瓶囲い三年冷温熟成・・・・のような値段は関係なく有無を言わせない美味しいお酒ができるかというと、それほど簡単なものではなさそうです。


しかし、芽吹いた若い新芽を酒屋さん料理店まで含めて大事に見守っていきたいものです。