オイオイ


「オイオイ、いいのかよ。それで」と心でつぶやきました。TVの主婦番組で日本料理の若い職人さんが”奥様にできる簡単料理”を紹介するようなコーナーを見ていてのことです。


お料理は「ブリのモト焼き」


「モト」とは私たちの世界でいう玉子のモト、卵の黄身に油を少しづつ入れて乳化させたマヨネーズに酢が入るまえの状態のことを言います。


ブリに下味をつけてソテーし、玉子のモトをのせてオーブントースターで焼き目をつける。筍、アスパラ、トマト、エリンギ、ニンニクなどを炒めてモト焼きの上にのせ最後に刻んだバジルを盛って出来上がり。


美味しそうに見えますか?


私の修行時代にも「モト焼き」というのを教わりました。が、そう美味しいものではありません。むしろ職人が仕事をしていると勘違いする料理のひとつ、くらいの認識が私にはあります。


二月も後半と言うこの時期に「ブリが今おいしいです」というのも困ったものです。二月に入っていいブリに出会うことはあまりありません。


一番の問題はソテーです。和食の人間がソテーをしてはいけないということではなくて、素人奥様レベルのソテーの技術をメディアでご披露するのが辛いという気持ちです。魚をソテーするフレンチの料理人の技術は素晴らしいものがあります。力のある職人さんのソテーしたものをいただくと「太刀打ちできない、あまりにもレベルが違いすぎる」と心服します。その道のプロで、プロの技術の一部を紹介する以上、自分の技術のレベルと、その本来のあるべき姿を冷静に知っていることは大事だと思うのです。


野菜類を炒めるにも、ニンニクを入れるのであれば、まずニンニクの香りを出すことからするのが常道であるはずのにニンニクを投入したのは最後でした。味付けをし忘れたのは愛嬌としても、似たようなフレンチの料理がありますが、一皿の完成度は天と地の開きがあります。季節の野菜であればいいと言うわけではありません。バジルを刻んでのせることにも全く意味がありません。


創作という名の混沌、勉強という名の無理解、意欲という名の無見識。


同じコーナーでイタリアンやフレンチ、中華の若い職人さんたちがたまにキラッと光る仕事をしているのをおもうと、「どうした和食、しっかりやろうぜ」という気持ちになります。


流行のニューベル・キュイジーヌまがい、上っ面の新日本料理。異分野の料理や料理法を取り入れるには勉強だけでなく、料理に対する意識のもち方、見識の高さが必要であると思うのです。若い料理人さんたちはどんな風に考えていらっしゃるのでしょう。


「うまけりゃいいじゃん」というのは真実ですが、「これがホントに美味いか?」という自分への問いかけはいつも必要です。


がんばろうぜ、和食。