呉服


朝起きると喉がちょっと痛い。


朝食前に即葛根湯、イソジン


新築開店して以来、おかげで仕事に支障が出るような寝込み方をしたことがありません。気合で乗り切っているって感じでしょうか。こういうのはどこかで大きなひずみができそうで怖いのですが。


一昨日、女将の着物選びにお付き合いしてきました。


着物といったって全くの仕事用、ユニフォームみたいなもんで、店だって超高級店の「ご挨拶とお客様へのお世辞だけでいい」って仕事の女将ではありませんから(と責められる)、動きやすくて丈夫で安いやつを選びます。


伺った呉服屋さんはある会でご一緒している友人の店、気取らずわがままが言えます。


もちろんこういうのは初めてではないのですが、このとき実感したのが呉服を選ぶのは店のご主人の「話術と安心感」を買いに行くようなもの、ってことです。


大きな部屋であらかじめ選んでくれていたと思われる反物を「こんなところでは・・・」と畳にざーーーーと転がして広げてくれます。しかも10本20本と。


2-3mの長さで色とりどりの美しい反物が流れるように広がるのを見ているだけで、男性でもワクワクします。


その間にも、ご主人は女将の目の行き所、所作をひとつも見逃しません。


今日選ぶべき素材はどういうものか。
好みはどんなところか。
予算はどの辺を考えているか。


具体的な質問はひとつもしないで、要所要所をきちっと抑えながら、再び違う反物が5本10本と現れてまたざーーーーと流れていきます。


あっという間にかなり広い部屋は、極彩色の絨毯を引き詰めたように艶やかになりました。


安モンは安モンなりにそれでも選んでいるという満足感に溢れてきます。


ご主人は決して押し付けがましく薦めることなく、各素材を上手に説明しながら選択範囲を広げたり狭めたりして好奇心をくすぐります。


たった、一枚二枚の着物と帯を選ぶのにたっぷりとした気持ちだけは贅沢な時間と、空間を楽しんでいました。


結局、ご主人の手のひらの上で楽しく遊ばせていただいたという一時でありました。


帰り際に「私の紋付袴を作ったらどのくらいでできますか?」と聞いただけで、再び同じことが繰り返されそうになったので、慌てて止めて基本的な予算だけお伺いしました。


「○十万円くらい、でしょうか」


やっぱり、私の紋付袴をしつらえるのはずっと先になりそうです。