お見送り


名店と言われる店では、「一見客」であっても気持ちのよいお見送りを受けることが多いものです。


高麗橋吉兆」さんでは、雨がそぼ降る中、お座敷を担当してくださった若女将他三人が、タクシーが角を曲がって見えなくなるまで見送ってくださいました。次に伺ったときにも同様。


「京味」さんではご主人と息子さん二人が店の外まででてお見送りをしてくださいました。


「きよ田」でもご主人はカウンターのお客様がいらっしゃるのに外まで出ていらっしゃいました。


桜田」では女将さんはもちろん、食事をいただいている間は調理場から出ていらっしゃらなかったご主人も外でお見送りをしてくださいました。しかも、小路の角を曲がる70-80mをずっと二人で。


「ジャンティ」では久保田さんは、私たちが二階からエレベーターで降りる間に階段を駆け下りて外まで出てお見送りをしてくださいました。


一方、以前伺った東京のあるフレンチ・レストランではランチの予約は私たちだけ、料理にもワインにも満足して、帰りの際に「シェフにお礼を申し上げたいのですが」と伝えたのですが、「夜の仕込みに追われておりまして」とお顔を拝見することができませんでした。


テーブルにおいでにならなくても、帰るときにシェフ自身の「ありがとうございました」の一声があれば(お客は私たちだけなのですから)間違いなく好感度は三倍になったと思います。


私ン処のお向かいの「御座楼」さんは居酒屋さんでも出口までお見送りをしていらっしゃいます。隣の「バークレー」でもご主人は戸口まででて「お気をつけて」と声をかけています。ちょっと先の若い女性向けブティックでも、担当の子は必ず階段をお客様と下りて外でお見送りをしています。


私ン処でも、仕事が許す限り私と女将がお見送りをするように心がけています。「しなくてはいけない」ではなくて、お安くないお足をいただいて、わざわざ予約をしておいでいただいたことがありがたくて、手を合わせるような気持ちでお見送りをします。「ありがとうございました。またお近いうちに・・・」は心底です。