名演その9〜三つのゴールドベルク変奏曲
バッハ作曲「ゴールドベルク変奏曲」といえば、誰もがまずグレン・グールドの名演をあげます。
それほど1955年に録音されたグールドのゴールドベルク変奏曲は衝撃的で、私もこれを初めて聞いた二十代の前半「こんなのありか!」と思わず叫びました。
「知的」解釈で練り上げられたグールドのバッハは、素人目に見ても全く譜面通りでないことが明らかで、当時ジャズだけに傾倒していた私にはクラシックがここまで柔軟であることを知った嬉しさで、パブロ・カザルスとともにこの手の音楽を聞く突破口になりました。
超愛聴盤となった「ゴールドベルク変奏曲」、その後すぐ1981年に同じグールドによって再録音され翌年彼はは50歳で亡くなりました。
1955年の劇的なデビューがゴールドベルクで、亡くなる直前が彼の唯一の再録音のゴールドベルク。この神の仕業とも思える話題性も含めて「ゴールドベルク変奏曲」は「バッハの」以上に「グールドの」曲になりました。
幸い、1981年のニューヨークでの録音は映像としても残っていて、1955年版はCD、1981年版はLDで楽しんでいたのですが、つい先ごろ、このサイトの掲示板で教えていただいたマレイ・ペライヤの「ゴールドベルク変奏曲」を知りました。
歴史に残る名演の多くは、アルバムの最初の4小節だけで心の琴線に響くものです。
ペライヤのゴールドベルク変奏曲には一音一音に豊かに広がる余韻が感じられ、その余韻が聞く者の情感を深く揺さぶってくれます。
実はクラシック界ではかなり話題になっていたアルバムなのだそうですが、ネット上のお付き合いがなければこれほどの名盤を知らずに過ごすところでした。
1955年、1981年のグレン・グールド、このマレイ・ペレイヤ。三枚のバッハ「ゴールドベルク変奏曲」
一枚より二枚、二枚より三枚が単純に嬉しい。