新鮮信奉
「酒は新潟に限る」とおっしゃっていたお客様がいらっしゃいます。
一昔前と違って新潟酒の品揃えは貧弱なほうですので、とりあえず「八海山大吟醸」やら「鄙願」「亀の翁」など定番で我慢していただいていました。それでもなんとか通っていただいているうちに、ごいっしょのお客様のお友達から次第にご要望が増えて、新潟以外のお酒のよさも次第にご理解いただけるようになってきました。
もともと酒飲みの素養がある方です。好き嫌いがはっきりしているとはいっても目が開けばその広がり方は早いものです。
「今は新潟酒だけがいい酒って時代ではありませんよ」などと他の酒を無理強いしなくてよかった。
店主のポリシーの押し付けほど心地よくないものはありません。
で、
先日特に気に入っていただいたのが、「益荒男 大吟醸斗瓶囲い」
菊姫で名杜氏とうたわれた農口尚彦さんが、加賀の鹿野酒造へ請われて移られ造っているお酒です。以前なら菊姫大吟醸でさえ認めていただけなかったのにすごい変化です。
瓶の最後の一合を飲み干していただいて、もうちょっとということで新しいボトルを封切りしました。
「あれ?さっきの方がずっと美味しい。おもしろいもんだねぇ。残った酒のほうが美味いんだぁ」
さすがによくお分かりです。
本来なら私が二三日前に封切りしておいて置かなくてはいけなかったのですが、吟醸大吟醸クラスはものによって、封切り後しばらくしてから酒が開いてくることがあります。
空気にふれて味がこなれてくるのです。
先日ご紹介した「奥播磨純米吟醸袋搾り 半斗瓶」のようにいただいた後に酒屋さんで寝かせておいたり、前述の鹿野酒造の山廃大吟醸は私どものワインセラーですでに一年寝かせています。ワインと同様に熟成の後のことをしっかり考えてあげてお酒を出す時代になってきているのです。
お客様のレベルでもその違いがはっきりわかるのですから、料理屋のオヤジや酒屋さんはその二三歩先を見つめている必要があります。
日本酒は新酒が美味しいとか、封切りの最初こそ一番美味いなどという、今では実は通用しない日本人の鮮度信奉はそろそろ捨てなくてはいけません。
「いいの、封切りばかりいただいて」より
「最後の一杯、うまそうだねぇ」という時代がくるか?
(すべてのお酒がではないですよ)
時間が必要です。