名演その1


1973年秋、新宿のジャズ喫茶「ママ」ではじめて聞いた
BILL EVANS TRIO ”WALTZ FOR DEBBY”(ビル エバンス ”ワルツ フォー デビィ”)


ジャズファンにとってはいまさら語る必要などないほどの名盤、名演なのですが、初めて聞いた時と場所を鮮明に覚えているほどのレコードはそうたくさんはありません。


別にその時恋人と一緒だったとか、衝撃的な事件があったとかではなくても記憶にある・・・レコードを聞いた事自体が私にとっては衝撃的だったのです。


ニューヨークのジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」のざわめきとグラスが触れ合う音の中、でだしの音がちょっとずれて「マイフーリッシュ・ハート」が始まります。メロディーラインを追うだけのビル・エバンスのピアノ、音数の多いスコット・ラ・ファロ(ベーシスト)がこれ以上はないほどシンプルなバッキング、ブラッシでスネアをこするだけのポール・モチアン、それでも名演は名演なのです。恋人たちがこの音楽をBGMに使うだけでムードが高まる事は請け合いです。


続いて、エバンス〜ラファロの二人で始まる「ワルツ・フォーデビィ」 テーマを演奏する最初のワンコーラスの美しさはライブ演奏とは思えない緻密なものです。その上、ワルツからフォービートに移行してドラムのモチアンが入ってからはスィング感に溢れています。


この二曲を聞くためだけのためにレコードを買っても損はありません。保証します。


「初めてジャズ聞くんだけど、何かお奨めは?」と聞かれたらこの盤をお奨めするかもしれません。


40年前の演奏を30年近く聞きつづけても飽くことがないのですから。


これほどの名トリオなのに、レコードとして後世に残るのはたった四枚。


しかし、残した録音の数でなく、たった一曲でも歴史に残る事はあるのです。


この演奏、1961年6月25日の10日後にベーシスト、天才スコット・ラファロは自動車事故で夭折しています。


すべての人にお奨め。