お任せの日本酒
客筋が見えない一見のお客様が「何か日本酒を」おっしゃった時はとても迷います。
とりあえずは料理の予算のことも考慮に入れて、ほどほどの値段の淡麗辛口と思えるものを提供させていただきます。
お客様のそのお酒への評価が的を得ていて、飲み口の許容範囲が広そうであると判断できる時には、硬軟取り混ぜた様々な切り口でお酒を変化させて楽しんでいただける組み立て方が出来るとホッとするのですが、淡麗辛口と思うものをお届けして「甘い!」と一刀両断のお言葉をいただいた時が難関です。
ただ辛いだけのお酒をお持ちするか、有無を言わさぬ高額でも切れのいい、味わいのあるお酒をお持ちするか、後者を選んだ場合、さらに「甘い!」といわれると高額でもありますし、八方塞になってしまいます。
多くの場合、お酒が強くて「辛口信奉」とお見受けする方にはこのパターン、「辛口=男の酒」みたいなハードボイルドをただ強調したい方にはこのパターンというある程度の見につけたノウハウでなんとかなりますが、お酒というのは料理以上に嗜好品ですから様々なお客様に出会います。
先日お見えいただいた初めてのお客様は典型的な前者。
「南大吟醸」がダメで、「雪の松島超辛口」も今ひとつ、菊姫「吟」七年熟成で二重丸がでました。
これでこの方の予算も味も少し見えましたので、続いてお見えいただいた時には最初から最後まで初亀「亀」秘蔵大吟醸。こういう方にはお酒をあれこれ弄くって変化させないほうがよさそうです。
別のあるお客様は若い女性。
お連れの男性はそれほど飲まないけれど、知識はたくさんおありのようでペトリュスやクリスタルの話題が出ているくらいでしたので、日本酒のご注文があってもあまり予算ばかりを気にしないで美味しい物をと思いました。
で、
試していただこうと
志太泉「高橋貞實」(限定120本)・・・・・「あまーーーい」(高橋杜氏ゴメンナサイ)
うーーーん、じゃぁと
明鏡止水「純米大吟醸斗瓶」
八海山大吟醸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「好みとちょっと違います」
黒龍「仁左衛門」・・・・・・・・・・・・・・・・・「うーーーん あんまりぃぃ」(新村杜氏ゴメンナサイ)
奥播磨「還暦」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「やっぱり あんまりぃぃぃ」
「仁左衛門や還暦あたりを比べるのは、たとえばエルメスとグッチのどちらが好きかみたいな物なのですが・・・これまででお召し上がりになったものでお好きな日本酒は?」と伺うと。
「万寿とかぁぁぁ」って
反省します。
修行が全然足りません、私。
やっぱり「万寿」置かないと料理屋やっていけないでしょうか?
(誤解がないように申し上げますが、万寿はとてもいいお酒です)