お大尽


すでにお大尽という言葉は死語になっていますが、先日久しぶりにお見えいただいたそのお得意様は数少ないお大尽の影を残された方です。


遊び方がきれいで、店への心づけを忘れた事が無く、食べ物への造詣は底知れない物があります。


2kgの抜群の平目をおだししても「こりゃ、俺に出すお造りじゃないだろ・・・」と怖い事をおっしゃるかと思えば、季節に作った赤貝のヌタに「分葱と味噌の具合がいい」と絶賛のお言葉をくださったり、変哲も無い(私自身はとても力を入れている)白だつの煮たものを評価してくださったり・・・・・片時も緊張をとけないお得意様です。


最近体調を崩されたのですが、快気祝をと元料理屋の女将がご夫婦を私ン処へ招待されました。


母と同世代のこの女将というのも、元々超売れっ子の芸者で、こじんまりした料理屋を開いてからも、この地の名士はほとんど通うと言うほどのサロンを作り上げた人です。


お三人が若い頃どのようなストーリーがあったのか・・・知るべくもありませんが、お大尽と奥様、女将、美しく老いた三人が静かに飲み食べ語る姿には、贅を尽くした果てに見える粋が感じられました。