恐いお客様


すべてのお客様に対して、同じ思いで接するのはもちろんのことなのですが、お客様によって緊張感が違う事は仕方ないことです。


昨日お見えいただいた料理関係のライターとなさっているお客様は、取材ではありませんでした。


最大手の出版社に長く勤め、フリーランスとなった今でも最先端の取材をなさっているその方は、和やかにお話をなさっていても、お話から垣間見える料理への造詣の深さ、食材の豊かな知識、綺羅星のような人間関係、どれをとっても素晴らしい物であるのが窺い知れます。


こういう方にひとつ気張った料理を・・・・などと思っても、すぐにお里が知れてしまう事は自明の理です。


たぶんお出しする料理の食材はすぐに見分けられるし、私程度の板前がジタバタしたところで料理法もお見通しのはずです。


謙遜しておっしゃる料理のお話の一言一言が、その素養の豊かさを想像させます。


一皿に盛られる料理のあしらいひとつにも、そうあるべき理由がなくてはならないとでもいうような姿勢は多くの優れた料理人といつも接してきていらっしゃるからだろうと思います。


お話を伺えば伺うほど冷や汗が出てきます。緊張感が襲います。


恐いお客様でした。


お一人のお相手をさせていただくのに、20人のお客様を一人でこなしたような疲労感に襲われました。


一人一人のお客様にいつもこういう緊張感を持っているのが当たり前ではあるのですが。