老舗


お付き合いのある魚屋さんが代変わりをしました。


二代目の社長となったのはまだ三十代の若者。


お父さんは15年の魚屋の修行後、一から店を築いたたたき上げです。


店の35周年を期にした世代交代のご挨拶におい出ていただいて、二人の言葉からは二代目の重圧感と初代の期待を感じます。


たまたま最近見た雑誌の「老舗は正しい」という特集にこんな記事が載っていました。


「今回選んだ店は、結果多くの点で共通するものがあった。少しの例外は除いて支店を出していない事、小規模の店で続けられている事、家族経営であること、事前に調べたわけでもないのに、こうした共通点があるのは、言うまでもなく偶然ではない。老舗が老舗であるための必然の結果なのである」


と。


長年続いているという事実だけで「老舗」というのであれば、私ン処も老舗なのかもしれません。


そして確かに上記の共通点は全く私ン処にも当てはまります。


ただ、件の魚屋さんのように老舗としての重圧感とか、この先何代も続けなくてはならないという使命感があるかというと、私にはそれは全くありません。


幸い、祖父も父もそんなことを私に託したことさえありません。


回りの長年続く店が、何十人と言う大きな宴会が出来るように店を拡大したり、デパートに進出したり、支店を出したり、多角的に店を広げるのを見て最近は羨ましいと思うこともなくなりました。


祖父がふと口にした事がある「料理屋なんてのは食べるだけ稼ぐくらいが丁度いいのだ」という言葉は妙に今重みを持っています。


私が子供の頃、世間の多くの人々は食べるために働かなくてはなりませんでした。


今も、もちろん食べるためではあるのですが、自分の満足のための仕事もさせていただいて、お足を頂戴できる時代になったのは何より幸せです。


店の80年の歴史の中で、私が全部引き継いでからまだたったの10年。あと20年続ける事ができれば100年。


いい区切りだと思っています。