楽しみ上手


同じ料理、同じクラスのお酒をおだししても、お客様によって満足度は様々です。


一昨日見えたあるお客様。お得意様と一緒に接待でご利用いただきました。


接待を受ける側のお客様は、料理も万遍なく召し上がってくださり、美味いともおしゃいませんが、まっ、不味かぁないだろうな、という感触でした。


ところが、接待される側の初めて見える方は、すべての料理が食い散らかしてあり、「ここの酒は甘いやつばかりだな」と。


黒龍 しずく、奥播磨 鑑評会出品酒、田酒 純米大吟醸斗瓶などを召し上がっておっしゃいます。


(血が逆流するのを押さえつつ)「失礼しました。じゃ、こんなのを」と、こういう方のために取ってある日本酒度+20度(超辛口)をお出しすると、「僕はこういうほうがいいな」「・・・・・・」


前述の綺羅星のようなお酒の1/5のお値段、辛いだけの旨みも何もないお酒なのですが・・・・・。


気骨のある店なら、「家の酒はこういう酒です。気に入らなきゃとっとと帰ってくれ」と塩まくのでしょうが、気弱で軟弱な板前の店ではすぐお客様に迎合してしまいます。


ご一緒だった、同じく接待側の普段からご利用いただく方は、内心困ったなと思いつつ様子をご覧になっていたようです。


全く同じ日、カウンター席においでいただいたお得意様は接待を受ける側でした。


当然のようにすべての料理を平らげてくださるだけでなく、「これ、美味いですねぇ。どういうものなんですか?」とか「スミからスミまで手を抜いてないですね」とか、分不相応なくらいお褒めの言葉をかけてくださいます。


お酒も詳しい方のですので、私が説明する以上に他のお客様に、いかにこのお酒が貴重で美味しいものなのかを楽しそうにお話なさいます。


同じ料理、同じクラスのお酒でも、座の雰囲気は5倍良くなり、美味しさも倍に感じられるはずです。


ありがたいのは、接待する側も相手先が楽しんでいることを確認できるだけでなく、心の中で「次もこの店を使おう」ときっと思ってくださるだろうということです。


不味いものをあげつらうより、一つでも良いものがあったら誉めておいたほうが、座の雰囲気は数段よくなります。


力のない板前でも調子に乗せれば、もしかすると美味しいものができるかもしれません。


楽しみ上手は他の方より美味しいものが食べられます。