若い力


歌舞伎の市川猿之助というと、一般的には早変わりや空中浮遊の「ケレンの役者」と見られがちです。


私も20年も近く前にその舞台を始めてみたときには、驚きワクワクもしたものでありました。


その一番弟子、市川右近ともなればさぞや、と思ったら大間違い。


その市川右近を中心とする「21世紀歌舞伎」を見てきました。というより、公演のお手伝いをしてきました。


「21世紀歌舞伎」始めてみたのが、一昨年のこと。「白波五人男」「勧進帳」の二本の演目でした。


今回は「連獅子」、と言う具合で、歌舞伎好きから見たら、どれも十八番(おはこ)、ケレンのケの字もないほどの真っ当過ぎるほどの出し物です。


歌舞伎の世界の事などほとんど何も知らない私には、右近がこういう演目?さぞや面白い趣向で・・・と思ったのですが、舞台内容も至極真っ直ぐで、直球力勝負の白熱の舞台でした。


とかく、古典芸能となると世襲があり、血筋のいい役者がもてはやされ、至芸と言われるような壮年老年の役者がどこかに出てこなければ、舞台が小屋が成立しないようなイメージがあります。


21世紀歌舞伎にはそういう役者が一人もいません。それでいて出し物は、クラシックなら「ベートーベンの五番」と「ブラームスの四番」を一緒にやるような、ジャズなら「A トレイン」で始まって「Cジャムブルース」で終わるような内容です。


しかも、よく顔見世興行などであるいいとこどりの演出ではなくて、始めから最後まで腰を据えて取り組むやり方です。


昨日の連獅子も、例の長い髪をくるくる振り回すまでの一時間近い舞台を、息もつかせないほど迫力のある内容で押し通しました。


若いパワーのある舞台は見ていても気持ちのいい、すがすがしいものです。名人芸も良いけれど、本来舞台と言うのは、こういう押し迫る迫力を感じさせてこそ成立するものなのかもしれません。


世襲には無い、舞台が好き、歌舞伎が好きだけで修練を重ねた役者さん達にこそその世界の未来があるような気がします。


舞台裏での右近さんはじめ、役者さん鳴り物の皆さんも、舞台通りの礼儀正しいすがすがしい方々ばかりでありました。


応援したくなるのは当たり前です。