パブロ・カザルス

以前に、カザルスのことは書かせていただいています。


楽器店の譜面コーナーで購入した文庫本の中に、伊勢英子さんの「カザルスへの旅」も入っていました。カザルスと聞いただけで手が伸びてしまうのです。


その本は、絵本作家であり、学生時代にカザルスの愛弟子であったチェリストの、指導を受けていたという経歴を持つ伊勢さんが、カザルスの足跡をたどった小旅行をしたときの旅行記です。


何週間かの、しかもカザルスに関わる体験をしたのはホンの数日でも、内容は感動と情熱にあふれ、カザルスを知らない人にとっては、熱に浮かされているのではないかと思うほうほどです。


しかし、カザルスの生涯に触れたことがあり、演奏を耳にしたことがある人間には、彼女の文章をたどるだけで、涙が出そうになるほど感動を共有できます。


それほど、カザルス自身の影響力は大きく、死してなお多くの人々に音楽だけでなく、生き方そのものが刺激的です。


1980年ころ、半年間アメリカ・カナダをバックパックひとつで、貧乏旅行していた経験があります。


持っていた本は金子光晴の「さびしさの歌」「百人一首」のみ、ストリート イングリッシュだけで、何とか死なずにすむ程度の英語しか話せない私が、本屋で見つけたカザルスの伝記(英語版)手に入れました。


私の英語力では、普通なら読めそうにないような文章でも、伊勢英子さんの情熱と同じように、熱に浮かされたように面白く読み進めてしまったのです。カザルスの人生の熱気が乗り移ったようでした。後にも先にも、辞書なしで英語の本を読んでしまった唯一の経験です。


カザルスの不思議です。ここまで、音楽だけでなく、生き方が感動を与えた音楽家がいたでしょうか。伊勢さんの本が思い起こさせてくれました。