巨匠のCDより普通のコンサート

小山実稚恵さんのコンサートへ行って来ました。


何ヶ月ぶり、いえ何年ぶりのコンサートでしょう。


店を新築してからというもの、狙い澄ました休日の日のコンサート以外は全くホールへ出かける時間はなくなってしまいました。


今日はたまたま昼のお客さまの後、夜の少人数の予約まで時間があったこと、コンサートが4時からだったこと、当日券があったことなどラッキーな条件が重なって出かけることができました。


小山さんはチャイコフスキー コンクール、ショパン コンクールの両方に入賞した実力を持つピアニスト、どちらかのコンクールの模様をTVで見たことがあったのですが、既に15年も前のことです。


演目は
モーツアルト 幻想曲、バッハ半音階的幻想曲とフーガ、お得意のショパンの数々。


後半のショパンが生き生きと素晴らしく、ご自身が好きでたまらないという雰囲気がひしひしと伝わったこと以上に、前半のモーツアルト、バッハの演奏に驚きました。


最初のモーツアルトは「これがモーツアルト?」と耳を疑うほど自由な弾きこなしかたでありました。そのメロディーラインの作り方は、時にマイケル・ナイマンを想像させたり、時にブラッド・メルローを思い起こさせたりするほど官能的で、大モーツアルトが彼女の指の中で自由自在に操られているとさえ感じられるほどでした。


バッハも印象的でした。
とかく巨匠、名手と言われる演奏家の音は、楽曲の短音一つ一つの粒が極めて明瞭で、16分音符でも32分音符でも流れてしまうと言うことがなく、一つの音にビートが感じられながらスピード感があるものです。


いい例がグレン・グールド。どんなに早いパッセージでも音一つ一つにメッセージが感じられます。そういう奏者がいい奏者であって、テクニックがあると思っていたのですが、小山さんのバッハは違いました。


グールドのようにピアノをチェンバロ的に弾かず、ペダルを使って一小節分のパッセージを音の固まりとして響かせることが度々ありました。こんなバッハは初めてです。でも、気持ちいいです。こういうバッハもアリだと思いました。


演奏が終わる度に見せる、彼女のはにかんだような笑顔もあわせて、久しぶりのピアノ コンサートを堪能することができました。


ちょっと前に、名曲は名演奏者で聞くべきだと書きましたが、コンサートで聞く音楽はどんな名ディスクよりもすばらし経験を与えてくれます。


すぐ後に仕事が待っているのでなく、ゆっくり余韻を楽しむ食事であれば、一週間分の休みと同じくらいの満足なのですが・・・・人生にゆとりがないなぁ。