マイルス デイヴィス


中学に入って、トランペットを手にした私には、とりあえずアイドルといえばハーブ・アルバートでありました。


ラジオの深夜番組「オールナイトニッポン」のテーマ曲を演奏している人、もしくは当時の有名レーベルA&Mの共同経営者といえばピンとくるでしょうか


メキシコのマリアッチをアメリカンテイストで編曲したアルバムの数々は、なかなかの人気でもあったのです。


レコードを聴くことが日常になってきた私に、姉が買ってきた一枚のLPが衝撃を与えました。


マイルス・デイヴィス「リラックシン」


10代初めの子供には甘美な大人の香りのする音楽であります。


フォービート、アドリブ、黒人、インプロビゼーション、タバコ、酒、クスリ


いけないものがいっぱい詰まっている音楽です。


実際に聞くとピアノのレッド・ガーランドがイントロを間違えるところがそのまま入っていたり、エンディングでマイルスとディレクター、コルトレーンのやりとりが入っていたり、「今ならレコーディングの雰囲気がそのまま伝わる」などと考えるでしょうが、当時の私のレコードの範疇には、間違えとか、世間話がそのまま録音されているLPなど初めてでした。


音楽的に見ても8分音符が8分音符でないし、ミストーンはいっぱいあるし・・・・でもかっこいい。今まで聞いたどんな音楽よりかっこいい(クールって言う言葉さえ知りませんでした)音楽でした。


周りを見渡してもまだ、「ジャズ ジャズ」などとこまっしゃくれた小僧は誰もいなくて、女の子はグループサウンズ、男のでさえ「ビートルズがいい」というのは憚られた時代です。


同じ世代の友人より一歩先をいっているような気がすることと、大人の音楽を聴いているような気がすることだけで満足感が得られたのですから、単純なものです。


このレコードは輸入盤で、日本語の解説はなにもなくて、ジャケットの裏の英語は中学一年生には難しすぎて分かりません。


それでも、毎日のように聞いて次第に情報を知るようになると、このレコードは既に十年近くも前に録音されていたものであること、4枚のレコードをたった二日で録音したこと、どうやらメンバーの全員が録音当時は新人であったけれど、既に全員が巨匠と呼ばれる存在であることなどなど子供を驚かせるには十分な事実が明らかになってきました。


「同じようなかっこいいヤツが4枚もあるなら、もっと聞きたい」


次は自分で「クッキン」を買ってきました。(他の二枚だったらジャズを聴き続けていなかったかもしれません)


必然的に、いっしょにやっているジョン・コルトレーンの音楽も聴きたくなる。


レッド・ガーランドも、ポール・チェンバースも、フィリー・ジョー・ジョーンズも。


で、そのたびに驚愕し、さらにのめり込んでいきます。彼らから派生する数々のミュージシャンはきら星のような音楽を作り出していました。


そうして今も続くジャズへの傾倒が始まりました。


最初がマイルス・デイヴィスでなかったら、今はきっと音楽からは離れていたでしょう。


今も、自信を持ってお奨めします。

MILES DAIVIS "RELAXIN'" "COOKIN'"