食べる人Ⅲ

さて、お目当ての店に入って料理をいただくとき、大事なのは、料理を楽しむこと、場を楽しむことにつきます。


店にとっていいお客さまは、「うまい」を連発してくださるかたよりも、お席が華やぎ楽しい方です。どんなに美味しくて、味をよくご存じでも批評家的に召し上がれるよりは、場の雰囲気が楽しく盛り上がっているほうがいいに決まっています。


ホストとしてグループなりカップルの話題を作り上げるには、やはり場数を踏んでいる方が強いようです。


で、
さらにあえて言うなら、
他の料理店の話ばかりをしない。
食の知識をひけらかせない。
器を誉めるのはいいけれど、ひっくり返してのぞかない。
人の悪口や他店の悪口だけで盛り上がらない。
あの店のこれよりとか、あっちの料理のほうがとか比較をしない。
やたらに誉めすぎない。
が、いいところを一つくらいは見つけて持ち上げてみる。


なんてなことを当たり前のように心得ていれば、かなりの高得点です。


なかでも、店の印象に残るように誉めるのは結構難しいものです。


どんな料理店でも「果たして美味しく召し上がっていただいているだろか」というのがとても気になります。


「俺のこの料理のうまさがわからんか」という強気の板前がいないことはないのですが、毎日ハラハラしているのが本当のところです。また、ハラハラするくらいの緊張感がなくてはいい店であり得ません。


そこで、板前が一生懸命、力が入っているところをツボを押すように誉める。


その一言でこのお客さまには理解していただいている、と簡単に有頂天になってしまいます。


板前なんて単純なものです。


そういうお客さまは必ず印象に残り、次はさらに美味しいものを・・・と上客への道が開けるわけです。


でも、このツボってのは杓子定規にお教えできるものではありません。


先ずは場数を踏むことです。勘どころが見えてきます。