反則
神様といわれる音楽家がいます。
一人はジェシー ノーマン。20世紀から21世紀にかけての最高の歌手であります。
彼女の歌声は神が与えたものだと思います。まさに神の声といっても過言ではありません。
ジェシー ノーマンの新作「夏の思い出〜ジェシー ノーマン/ミシェル ルグラン」は題名の通りミシェル ルグランの名曲ばかりをルグランの伴奏でジェシー ノーマンが歌うという企画です。
クラシック系の歌手がポップスを歌う企画はたくさんありました。近くはフィリッパ ジョルダーノ(クラシックをポップに歌う企画)
が、ただの歌手ではありません。神様なのです。しかもお供はミシェル ルグランです。
以前のパバロッティの「カルーソ」のように、なみいるポップ歌手を一気になぎ倒してしまうような圧倒的な迫力を期待しました。
聞いてみると確かに素晴らしい。これまで聞いたどの「サマー ノウズ」より格調が高い。
のですが、
パバロッティ「カルーソ」が一曲だけだったように、神様はホンのちょっと下界に降りてきてくれるだけでよかったような気がします。アルバム一枚分は歌っていただかなくても・・・というのでしょうか。
神様の反則です。
一曲だけで充分私たちはひれ伏しました。ましてやお供のルグランはピアニスト、伴奏者としてたくさん聞かなくても充分です。(コンポーザーとしては歴史に残る巨匠です)
ルグラン ジャズというアルバムでも奏者としての迫力はルグランよりはやはりフィル ウッズであり、ロン カーターであり、グラディ テイトでありました。
映画「ジョー ブラックをよろしく」でのブラッド ピットみたいに神様はどんなことしてもカッコイイのですが、そういうのはアルバムの中でちょっと見るだけが素敵です。
神様に対して恐れ多いことですけど。
もう一人の神様、ジョアン ジルベルト。
ボサノヴァの神様の何十年かぶりの新作は「ジョアン 声とギター」です。
本当にシンプルなギターだけで歌うジョアン、ギターの音には加工があるのかもしれませんが、歌声には微塵のエコーもかけられず、同じソファの隣でジョアンが弾いて歌っているような錯覚に陥るアルバムです。
アンプラグドとアコースティックが大流行の昨今でもこれほどシンプルな音づくりは聞いたことがありません。
虚を突かれたとでも言うのか、これも神様の反則です。
これほど研ぎ澄まされた感覚と、リラックスしたゆったりした感覚が同居した歌声はまれです。
神様だから許され、聞くに耐えると言うよりはずーーーと聞いていたいアルバムになっています。
それにしても、ジョアンのフラフラしてそうで完璧な音程はどうすると完成するのでしょう。
神のみぞ知る才能です。