パブロ カザルス


1971年の国連平和デーでのパブロ カザルスの演奏を「歴史的名演」として教育TVでやっていました。


そのころ高校生だった私にとってこれは「生涯忘れることのできない」と実感できる映像でした。
両脇を抱えられないと歩けないほどのよぼよぼの爺さんが、コントでやる中気でタクトが震えるっていうのをそのままやっているみたいな指揮ぶりなのに度迫力の演奏、さらに歴史に残るチェロでの「鳥の歌」の演奏。


「カタルーニアでは鳥はピース、ピースと鳴きます」といって弓を取るカザルスのチェロは、これもとても朗々と詠うとはいえない演奏なのにジワジワと心の中に響き、頭の芯が震えるほどの感動をおぼえました。


それまでクラシックの演奏でこれほど心を動かされたことはなかったのでした。パブロ カザルスの名前は10代半ばの心の襞にしっかり刻み込まれたのです。


それから何年かして東京で学生生活をおくっていた頃のこと、師匠と呼べる人物から「カザルスの無伴奏チェロ組曲聞いてみなよ。」とあるスランプに陥っていたときに勧められました。


あのカザルスか・・・とLPを買って聞いてみて、4小節で涙がでそうになりました。


当時の私にしてみると神の啓示を受けたと言っていいほどの衝撃でした。


1950年代の録音だというのにその音色はひたすら豊かで、宇宙のような広がりを持ち、四小節が四拍で収まらないテンポ感はゆりかごに揺られるように心地よいものです。


カザルスとこのバッハの名曲にまつわるドラマの数々はその後知ったものの、最初に針をLPに置いたときの感動こそがすべてでした。


それから聞いたミーシャ マイスキーもロストロ ポーヴィッチも最近のヨー ヨーマもみんな素晴らしいのですがやっぱりかえってくるのはカザルスです。


カザルスの演奏もコルトー ティボーのトリオ、ベートーベン、ドボルザーク、有名なホワイトハウスのライブ、どれも好きなのですがやっぱり原点の無伴奏チェロ組曲にもどります。


若い頃にこういう感動を知り、わたくし的古典として聴き続けられるのはとても幸せなことです。


しばらくぶりに見たTVの映像が実感させてくれました。