買っちゃだめ!


お付き合いのある絨毯屋さんが寄ってくださいました。


デパートや大手メーカーの絨毯展示会にうかがうのは、外商などのお付き合いの意味のほか、美術館に行くのと同じ気分で出かけます。


出かけるだけ。買えません。


なにしろ初めての絨毯との出会いはペルシャ絨毯がだいぶ日本に紹介され始めた頃、棟方志功展の最終日と絨毯展の最終日、さてどっち?というとき、普通なら絶対棟方志功に行くはずなのにどういう気分の変化か絨毯展に足を向けていたのでした。


そこで出合ったイスラムお祈り用の人一人が座る程度の小さな絨毯。
展示品ではなく、イラン人の輸入業者が私の興味津々なのを見て筒の中から取りだして見せてくれました。


見たこともないような美しい緑の下地に細かい文様。
1cmに12*12という信じられないような織り目。
うっとりする肌触り。
展示されている巨大な何千万円という絨毯より数倍魅力的で、背筋がゾゾっとするような感動をしました。
大好きな棟方以上の収穫です。


で、大きな絨毯展といえばそそくさと出かけ、買えなくても見る、買えなくてもさわる、買えなくても寝っころがる、を繰り返していました。


そうして出合った輸入業者のSさん。


輸入業者ですからデパートや小売店よりははるかに安く、しっかりした品物を紹介してくれます。


今回はビシャン(ペルシャ)を見せてくれました。
店の玄関にも使っている「鉄の絨毯」と言われる頑丈なすぐれ物。いい味が出るのには使って使って50年はかかるそうです。


値段は、若いときローンを組んでフウフウいいながら手に入れたトルコ絨毯より安い!


その当時は絨毯と言えばそんな値段だった・・・ということをさっぴてもやっぱり安い。


ほ、ほしい。


「買う、買わないは後で結構ですからしばらく置いて使っていただいてもいいですよ」
と、Sさん。


だめ!だめです。


そんなことしたら絶対手放したくなくなります。


店の畳を全部張り替えたばかりだし、焼き台は壊れて新しくしたばかりだし、ワインをまとめて購入したし。


全然ゆとり無し!


後ろ髪を引かれ、涙をのんであきらめました。
引かれた髪が抜けて禿げちゃいそうです。