目から鱗が


板前の必須条件
手先が起用?確かな舌?


それよりなにより、食べることがすき。ってことが大事です。
「うまいなーーー。」って感動する心があるかないかは大きな違い。
天才は別ですが。


私が唯一自慢できることといったら、それ。
食べること大好きなんです。
好きだからこんなこと言ちゃってお題目を付けてるのか、
または、ただの食い地のはった意地汚いやつなのか、
両方です。


そんな転機になったといえるのが「ほかけ」という名古屋のお寿司屋さんです。
もう十五年も前の話。


それまで食べていたのは「寿司のような物」でした。
正に目から鱗が落ちた瞬間。


必ず予約をして出かけると、時間にあわせて穴子を炊きあげておいてくれる
よけいな白身は置かない。平目か鱸のどちらかだけ
玉子は海老のすり身を入れた厚焼き 海老のおぼろをかませて
夏には3貫〜2貫つけの小肌。三河の新烏賊を塩で
春の赤貝 鳥貝 煮蛤
夏の鮑は水貝と蒸し鮑
余分な物は置かない
まっとうな本道を行く物だけ握る。


今では、仕事をした寿司が見直されているとはいえ
当時、手抜きのない仕事を見事にしている店に出会うことはあまりありませんでした。
刺身を酢飯に乗せただけ寿司屋が多い中で、
若かった私に仕事をした寿司のうまさ、
素材を厳選することの緊張感を教えてくれたのでした。


そして、客あしらい、気遣いの妙。
「お茶ください」なんて一回も言ったことありません。
少なくなっていたら、またさめていそうならなにも言わずに差し替えてくれます。
お客によって山葵の量も微妙に変え、
ネタが大きくなる物は女性用には必ず半分に切ってくれます。
2回目からは、なにも言わずに座るだけでざーと一通り握ってくれて
「さ、後どうしようか」
で、
特に美味しかった物をもう一回頼む。〆は奈良漬け一切れ。
ゆったりとまかせきれる雰囲気がありました。


決して安くはない店でしたが
13年「ほかけ」で食べるだけのために名古屋へ通いました。


そして、一昨年ご主人がガンでなくなり店を閉じました。


「ほかけ」通い続けたことで、食べること好きですって言えるようになった気がします。


一生の内で何人も出会えない「名人」を追いかけられたことは幸せです。
そして「ほかけ」のご主人の料理に対する姿勢は、今も私の最上の手本です。