ヤ のお方?


「空いてる?」
いかつい体つきにホワイト系のカジュアル。一人はパンチパーマ。一人は角刈り。
目つきが鋭い。
一見して「ヤ の筋の方」


視線に押されて「カウンターでよろしければ」と思わず言ってしまいました。


私ン処にはその筋のお客様は全くいないので
どんな風にしていいやらわかりません。


どきどきしながら料理とお酒をお出しし始めると、一変して目が穏やかになり
「この茄子うまいねえ」「こういう酒があるんだ」

がらりと雰囲気が変わってしましました。


勘違いした私が悪うございました。
見かけで判断してはいけません。
重々承知しているつもりでもこんなことあります。


考えてみれば、お客さまにしてみても、
値段は一応書いてあるものの
料理のメニューも酒のメニューも店先に掲示していない店に
うまいかまずいかもわからないで入るのにはある意味勇気のいることです
いきなりにこにこして入ってくるのはやっぱりお得意だけです。


この一見(いちげん)のこわそうなお客さまは、前庭の雰囲気を見て寄っていただいたとか。
(庭設計の大橋先生のおかげ)
たいそうお気に召していただいたようで
再び来店していただけそうです。
次回お見えいただいても絶対覚えてます、あのすごみのある雰囲気。


平山壽三郎「東京城残影」
すばらしい時代小説でした。
いわゆる江戸物とでも言うでしょうか、池波正太郎山本周五郎
最近では北原亜以子なども大好きですが、
この小説に描かれる男女の情感の機微は
ワイドショー感覚に麻痺した昨今のドロドロした生々しさを浄化してくれるようです。