〔お店〕 料理人の修行と暴力


つい先日東京の有名料理店のオーナーシェフが、見習い料理人に暴行を加え逮捕されたというニュースがありました。


TVで拝見する限り穏やかな人柄に見えた方だけに驚きました。


一般的に料理人、特に和食では修行時代にちょっとした暴力くらい当たり前と思われている節があります。


甲子園出場クラスの高校野球部を始めとする運動部などと同様に、一人前になった連中が「俺の若い頃は」と自慢げに酷い仕打ちに耐えて成長したことを語るのも見聞きもします。


以前から何度も申し上げているように、私の店では暴力も暴言もありえません。


恐怖で新人を鍛えるという手法は、私自身が経験してきて、この連鎖は絶対に断ち切るべきだと思いました。


そういうギスギスした調理場の雰囲気は必ずお客様に伝わってしまうものでし、明るく風通しのいい調理場の方が作業効率は絶対にいいはずです。


第一、怒鳴ったり殴ったりしなければならないのは、教え方伝え方に問題があるのです。新人の能力に合わせて仕事ができるように伝えるようなシステムを作ることこそ職人の大切な仕事です。


経験上、怒鳴られたり殴られたりするのは、よほどのボンクラでない限り、最初の1〜3年です。長い職人人生の中ではたいした時間ではありません。その短い時間を有意義に過ごし、早い成長を促すことのほうが大切なはずなのです。



試しに、今の調理場にいる二十代前半の二人に訊いてみました。


「以前の仕事場(ふたりとも別々のホテル系列です)で怒鳴られたり暴力をふるわれたりしたことある?」と。


ふたりが同様にいうには


「女ですからさすがに暴力はなかったですが、言葉の暴力はほぼ毎日でした。親方のほうが異常なんですよぉ」と口を揃えて。


「で、今は怒鳴らないけど、作業効率が落ちたり、覚えるのが遅くなったりした?それとも、この店に入って急に仕事が上達したから怒られなくなった?」と私。


「いえいえ、そんなことはないです」


彼女たちふたりは、私から見れば怒鳴る要素などひとつもないほど仕事もしっかり覚えてくれ、素直で真面目に働いてくれています。どこが悪くて怒鳴られていたのか、全く理解できないのですね。




ただし、こういう店のあり方を「生ぬるい」とか「緊張感に欠ける」と(影で)言って辞めていった若者も確かにいるのです。その後彼らが緊張感のある店で大成功したという噂はききませんが。。。。


どちらが正しいんでしょうか?



でもねぇ、怒鳴ったり殴ったりなんてカッコ悪いじゃぁないですか、私は単純にそう思います。