白子筍


極上の食材はできるだけ手をかけないことが美味しく食べるコツであると言われています。


できれば塩を振るだけで、できれば軽く茹でるだけで、できれば醤油をちょっとかけるだけで、できれば調味料はなにもつかわないで、できれば釣ったその場で、できれば収穫したその場で生のまま。


料理屋の出る幕はますます少なくなります。


とはいえ、そう主張する方々の多くは料理人ではなくて素人衆です。プロの料理人は最上の食材といえども、持ち味を引き出すために隠れたところで手間をかけてこその料理人なのです。


「いい食材はへぼな職人でも美味しくなってくれます」「極上の食材の前では仕事はなんにもしなくてもいいんです」とお客様の前では言ったりしますが、実は極上の食材こそどこまで技量を研ぎ澄ますかに職人の見識が問われます。


鯛は釣ったその場で刺身にするよりは、適正に活け締めにし、氷漬けに○分、○時間寝かせて初めて刺身として成立します。あしらいに何をそえ、どんな器に盛るか、でも料理人の技量は現れてきます。


新筍は京都乙訓や塚原産を使うのですが、ぬかとともに一時間半下茹でし、自然に冷めるまで放置、きれいに掃除してから、鰹節昆布の基本出汁にさらに追い鰹といりこなど加えて焚きます。この程度の仕事は「なぁぁんにもしてない」レベルのお話で、上質な食材の持ち味を引き出すためにどんな職人も当たり前に繰り返す仕事ではあります。


しかしながら、一年に一回か二回くらい乙訓 塚原から「白子筍」が入ってきます。



粘土質の土の中で地上に頭を出さずに大きくなった筍です。これこそが極上、なぁぁにもしなくていい。。。というよりも何かしすぎてはいけない食材です。


鰹節との相性がいいといわれ、追い鰹をして焚くことが通常である筍のなのに、白子筍にはそれさえも余分に感じてしまいます。昆布だしと塩だけで焚いて半日含ませたものを器に盛るだけ。筍なのに旬のトウモロコシのような甘味がつまり、ほろほろと噛まなくてもいいほど柔らかい。調理が少ない分ぎりぎりの緊張感があってそれが心地いい仕事です。


ただ、入荷する量があまりにも少なくて、召し上がっていただけるのはごく一部の方だけ。