熟成
石卷で津波の被害をうけた「日高見」
復興後醸された天竺愛山 純米吟醸生 醸造後一年寝かせたお酒がすばらしく美味しくなっています。
角が取れ柔らかくスムースに。のどごしがスルスルとなめらかです。香りは落ちていないどころか、堅さがとれた分香りが立ってきています。
この日記ではたびたび申し上げているのですが、日本人の新鮮信奉はできたてほど美味しいという迷信にとらわれています。
特に日本酒は封切り直後が一番美味しい。
封を切ったらその日のうちにボトルを飲みきるのがベスト。
できたての新酒が一番美味しい。
なんなら蔵のタンクの目の前で飲ませてもらうものがこの世の最高の贅沢。
あなたもそう信じていませんか?
確かにそれらは間違いではないのですが、日本酒の一面のおいしさだけを頑なに信じているだけなのです。
大吟醸の多くは一月二月頃に仕込まれ、その年の年末に出荷されます。できたて直後の方が蔵のキャッシュフロー的には嬉しいのですが、美味しさを優先すると寝かせることが大事だと作り手が認識しているわけです。
「秋上がり」とか「冷やおろし」という言葉が示すように、春の新酒よりも夏を越したお酒にうまみが増すと言うことを昔の日本人はよく知っていました。
焼津の銘酒「磯自慢」の箱には「開栓後は2〜3日/1週間と時の流れと共に味わいも変化します。宜しければお試しください」と書かれています。さすがです。
さらに言えば、蔵から出荷されたお酒が店頭に並ぶ。まさに並んだそのときがお酒の美味しさのピークだとも私は考えていません。お酒にはそれぞれに熟成の期間が必要なものがあります。熟成させずにすぐに飲むべきものもあります。熟成させるなら何度の温度で何ヶ月あるいは何年の期間が必要なのか。封を切ったらすぐに使い切るべきなのか、少々時間をおいた方が美味しくなるのか、造りによってすべて違います。それらを真摯に見つめ、お酒のピークにお客様に召し上がっていただく努力を重ねること、それこそが料理屋の仕事なのですね。
酒屋さんに並んでいるお酒を選んで買い求め、リストに載せてお客様に飲んでいただく。それだけでは「あのお店のお酒はなぜか美味しいねぇ」とは思っていただけない時代がもうやってきています。