おとなのけんか


「今、東京に住んでいて映画に行かないヤツはバカだ」


私の言葉ではありません。大好きなラジオ番組ライムスター宇多丸「ウィークエンド・シャッフル」の特集にこんなお題がありました。


ことほど左様に東京は世界の映画上映のメッカなのだそうです。今世界で一番多様な映画が観られる場所、それが東京。


一方地方都市は。


その格差たるや暗然としてしまうほどお寒い状況が地方です。同じ国なのに。


この近隣には三つのシネコンがあり、毎日十数本の映画上映が可能であるはずなのに、上映される映画の多くは、メディアミックスのTV主導型売れる映画だけです。80%は日本映画、しかも「奇跡の○○」「愛の○○」 難病モノ 動物モノ アイドル恋愛モノ 感動をありがとうモノ


原作は漫画、TVドラマ、超ベストセラー小説 携帯小説。オリジナル脚本とか舞台脚本の映画化はごく少数


アカデミー賞受賞作品だってやってこないのです。


まるで地方都市のクラシックオケ講演がベートーベンとブラームスチャイコフスキードボルザークで成立したり、地方落語会が誰でも知ってる題目で演じられるようなもんです。




たとえばロマン・ポランスキー  「戦場のピアニスト」が当たって「オリバー・ツイスト」がかかったんだから、「ゴーストライター」も何とか・・・という願いは虚しく・・・と悲嘆していたら、小さな映画館(上質だけを上映)で奇跡的に上映され小踊りして観にでかけたわけですが、「おとなのけんか」はまず無理、と諦めていたのです。


それがなんと先週末「やっと映画に行ける」としばらくチェックしていなかった近所のシネコンのプログラムを見ると16:00という中途半端な時間、一回限りながらやっているではありませんか。作品の出来としては前作「ゴーストライターを越えるのではないかという噂を耳にして、せめてDVDでチェックを・・・と思っていた作品です。


観客はきっと20人以下。。。と踏みつつ出かけたシネコンに客は25人。映画好きはちゃんといるんだ・・・と心をなで下ろしつつ観た「おとなのけんか」は、「こどもの喧嘩に親が出るなんて」とわかりつつ話し合いの場を持たなければならなかったふた夫婦の会話劇。


ジョディー・フォスター ケイト・ウィンスレット クリストフ・ヴァルツ ジョン・C・ライリーの四人だけ。アパートの一室(プラスα)だけで繰り広げられる90分の密度が異様に濃い演技のやりとりは、凄まじいを通り越してクラクラするような火花の散り合いです。映画でこんな会話劇を私は初めて見ました。


夫婦 こどものいる家族を長くやっていると、「あっ、そこそこ、イタタタタ」「あーーー、それ、いっちゃだめでしょぉ」ってな場面が、丸く収まりそうなシチュエーションをがらがら崩し、次の展開へ。険悪の雰囲気がお互いの趣味が垣間見えることでさらに次の展開へ。


秀逸な脚本とポランスキーの演出、役者の常人を越えた演技で観る者を惹きつけます。


もともとは舞台劇であったそうですが、映画でなければ、ジョディー・フォスターが激高したときの首の筋と額の青筋が見られない。あれは映画ならではです。


ポランスキー 79歳 同時代に躍動するこの天才に触れていられる幸せよ。