”戦火の馬”〜”ドライブ”


先々週はスピルバーグの「戦火の馬」を、そして昨日は「ドライブ」を映画館で観てきました。


「戦火の馬」


 名監督は子役の使い方が上手いと言われます。スピルバーグは”E.T.”でドリュー・バリモアを、「太陽の帝国」でクリスチャン・ベールを、「宇宙戦争」でダコダ・ファニングを・・・と誰もが認める名子役使いの名監督な上に、今度は馬使いまでもが、これまでにどの映画でも見たことがないほど見事なんであります。


時は第一次世界大戦時、貧しい農家に不相応に飼われたサラブレッドが徴用されて戦争に向かいます。このサラブレッドが戦争に翻弄されて敵味方を行き来する中で生まれる様々なドラマを通じて、戦争の悲惨さと人と馬、馬同士のふれあいが描かれるのです。それはもう馬が一役者であるかのように。


ファーストシーンで思い浮かべたのが、常連ジョン・ウィリアムスの音楽と映像が黒澤映画のようにシンクロしていること。この黒澤へのオマージュは、黒澤のお得意でもあった様々な馬のシーンにも感じられました。機関銃の乱射で瀕死の馬たちは、「影武者」の長篠の戦いのようでもあり、騎兵のシーンは「隠し砦の三悪人」、そしてなにより、第一次世界大戦が騎兵が機関銃や戦車に取って代わられる大きなエポックであったことを見事に描いているのは、「七人の侍」が剣術から種子島(銃)への移り変わりを描いたのと同じように感じられました。


今回の「戦火の馬」では第一次世界大戦の悲惨な塹壕戦を撮しながら、「プライベート・ライアン」のように凄惨な「血」が見られません。これはきっとスピルバーグがこどもにも伝えられるような動物映画の側面を大切にしたかった(R15指定関連)のかったのかもしれません。


職人の手抜きのない技術と、統一感のある諦めない映像とストーリー作りの見事さは今回スピルバーグでも感じることができました。この天才とともに時代を生きていられる幸福をたっぷりと味わった時間でした。



「ドライブ」


めっけもんです。この監督はすごいめっけもんです。


たいしたプロモーションもなく、ちょっと前に聞いた町山智弘さんの推薦だけをたよりに、奇跡的に(?)田舎町でも上映したのを見逃さずに出かけて良かった。3Dで「ヒューゴの不思議な発明」にいくべきか?すぐに終わってしまうであろう「ドライブ」を選択すべきか?かなり迷ったのですが、「ドライブ」の選択は正しかったのです。


昼間のカー・スタントマンと自動車修理工、夜の逃がし屋(強盗の)の顔を持つ男のバイオレンスアクションなんですが、なんか不思議なトーンで彩られているのです。文字通り映像的にも全編にわたってバイオレットっぽいというかブルーっぽい色調。少年少女のように思い合う主人公と女性は見つめ合うだけで言葉を多く発しない。かといって日本の高倉建さんのような寡黙さともちょっと違う。「ドライブ」というくらいなんだから、カーアクションがふんだんでもいいはずなのに、シーンの数としてはそれはすくない。陰惨な暴力シーンが派手かというと、クライマックスのそんなシーンを影だけで描いたりしちゃう。主人公が悪者をやっつけるところにこういう映画のカタルシスがあるはずなのにそこは控えめ。


と書くと、すべてが刺激の一歩手前で失敗作に思えるのに、画面から目が離せなくて、監督のへんてこな語り口に釘付けになっているのです。


ああ、誰かこの映画の素晴らしさを的確に表現して!


私はなんかわかんないけど凄いとしかいえません。


もしかするとこの映画、歴史に残るかもしれない。どういう理由か説明できないけど。。。ああ、もどかしい。。。けど間違いなく素晴らしい。