エンディングノート


就職後の人生のほとんどを会社に捧げた熱血営業マンが、引退の直後、末期癌を宣告されます。何よりも段取りを大切にしてきた彼は、人生の終末までの道のりをエンディングノートとして計画たてるのです。その姿を娘、砂田麻美監督が追い続けたドキュメンタリー「エンディングノート」


普段から家族の姿をヴィデオで撮り続けていたとはいえ、父親の最後の7−8ヶ月間を平易な感覚で撮し得たことが驚異的です。さらには撮りためてあった映像も含めて編集が見事です。人の死をお涙頂戴の道具としか使えない最近のTV中心のメディアミックス映画と対比してみると、家族全員が緊張感を持ちながらも穏やかに進む日常から終末に向かうまでの感動映像の数々は、泣かせるための道具として使われることは絶対にありません。


人の生き方を美しく飾り立てようとする最近のTVドキュメンタリーと対比しても、その視点から見れば、自らの人生の最終に向けて道筋を鮮やかにつけようとするあっぱれな父親としての存在も、娘(監督)からみれば、仕事で身につけた成功体験を家庭にまで持ち込むちょっと面倒くさい存在として写しているようにも見えます。また父娘の視点だけでなく、連れ添った母、父によく似た息子の視点も冷静に映し出しているという点でドキュメンタリー映像として優れています。


昨年見た「監督失格」といい、この「エンディングノート」といい、死を題材にしたドキュメンタリーに若い素晴らしい才能が現れているのが心強く頼もしい。


自分に照らし合わせても、父、母、祖母、姉の四人を見送り、すでに喪主経験四回というありがたくない立場でもありますし、父の亡くなった年齢まであと10年を切ってしまった「棺桶に片足をつっこんだ」立場も含めて、エンディングノートそのものが人ごとではありません。ただ、父の死が突然だったことを思い返すと、「エンディングノート」が残されなくても、後の家族はなんとか悲しみも含めてあらゆることをそれなりに乗り越えられるもんなのよね。。。という実感もあり、映像全体に見える成功したサラリーマン家族の風景が板前風情には羨ましくもあり。。。などという感想もちらっと頭をよぎりました。