しつこく日本酒のお話


一般的な日本料理店では日本酒はメニューリストの中に記載されていて、お客様がそれを選ぶ、もしくは「お奨めは?」とお尋ねがあって一種類か二種類のお奨めを試してみるというケースが多いのだと思います。リストにない店のお奨めを次から次へという私ン処のようなやり方は決して多数派ではありません。


これまでも何度も言ってきたように、そういうやり方は長い間の試行錯誤の結果自然に出来上がったもので、ご来店いただく日本酒好きの9割のお客様にはご支持をいただいるように思います。前々回申し上げたように、いわば私ン処の流儀とでもいうような形態です。


但し、流儀というヤツは面倒くさいもので、時としてこちらのこだわり(ネガティブな意味での)を押し付けることになる場合もあることは重々承知しています。昨今では「流儀」というと生き方を突き詰めた格好のいいスタイルのあるものと思われがちですが、流儀は周りの人間に迷惑をかけるスタイルになることもあるのです。一番最悪なのは流儀と流儀がぶつかり合ってしまう場合。


日本酒は純米であるべきだ。
日本酒は辛口でなくてはならない。
日本酒は新酒の開けたてほど美味しいものはない。
日本酒は料理の中で一種類であるべきだ。
日本酒の大吟醸なんて香りばっかりで料理には合わない。
日本酒は寒い地方で出来たものに限る。
日本酒は自分で選ばなければ承知が悪い。


挙げ始めたらキリがありません。


私のやり方が流儀と申し上げましたが、これまで散々申し上げたように、私の流儀の最たるものは「料理屋はお客様に満足していただいてナンボである」という項目は最優先にあります。ですから、私にとってはある意味理不尽と思われるお客様の流儀があったとしても、最大限それにそうべく努力するのが料理屋の使命であるという思いは変っていません。


ただ・・・本当に私の未熟なるがゆえですが、二年にお一人位お客様の流儀についていけなくてさじを投げてしまうことがあります。たまに日記に愚痴を書いてしまうのはそんなときなのです。9割のお客様の支持があるやり方が全否定されてしまうと大人げない板前になってしまうのですね。





全体の1%にもみたいないお客様・・・・今回しつこく日本酒への取り組みについて書いているのも、日記のコメント欄に「ちょっとばかり傲慢ではないか」という言葉を見てしまったからです。


時間をおいてゆっくり考えればこれほどこの一言にこだわる必要もないのかもしれませんが、一週間を経てみてもやっぱり営業サイトのコメント欄に書いていただくにはふさわしくない言い回しではなかったかと思うのです。こういう風に一瞬でも場が荒れてしまうのは掲示板時代から三〜四年に一回くらいあります。このサイトはあくまで営業のために運営されています。あえて言えば、料理店の店先で「あんたのやり方は違うじゃぁないか!」「料理屋としてそれはお客様に失礼だ」と公に言われているようなものです。それに対して、実際の私と私のやり方にずっと賛同してくださっているお客様が次々と論をはってくださり、私にすれば有難い、否定された方にとっては「なんだぁ、この店は!」と思うようなやり取りでした。


これまでも何度も匿名の批判には嫌悪の気持ちを言い表してきました。もし万が一私が日記で書く内容にどうしても許せない一言があったとしたら、まずは素性を明らかにした上でmailでお知らせいただきたいと思います。板前日記は言論人ではないしがない職人の駄話で、しかも毎日書き散らしている貧弱な内容の日記です。できうれば片目をつぶって「あいつ、またあんな馬鹿なことを」とため息をつきながらご覧いただくくらいが丁度良いように思うのです。


もう一つ言えば、日本酒は私の料理店店主としての5%にも満たない側面です。たいしたこともやっていないし、たいしたことも言ってはいません。そこン処に食い込まれてもなぁぁぁ・・・ってのが正直な印象。



いままで批判があっても私の側からこういう物言いをすることは控えてきました。それもやっぱりこのサイトが営業サイトであるがゆえです。じっと沈黙をまもることこそがとるべき正しい手法であったのです。しかし、twitterという新たな発言の場ができ、そこでのやり取りがなにやら今までとは別のコミュニケーション・ツールになることをこの半年見てきて、あえて言わなくてもいいかもしれないことを言ってみたわけです。もしかしたら2チャンネルに代表されるような悪辣な匿名発言の形態が変ってくるかもしれない・・・と。果たしてどんな結果になるんでしょうねぇ。